以前、イワタケ狩りにちょっとハマっていて、地衣類についていろいろと調べてみたことがあった。
地衣類というのは菌類が藻類を共生させた結果光合成で生きられるようになったもののことで、形態的にも生態的にも植物類と菌類の中間的なものがおおい。
見た目が緑色なので「○○ゴケ」と呼ばれるものが多いが、本体は菌類なので、「岩茸」という表記はある意味では真実に近い(もちろんキノコでもないんだけど)。
空気のきれいな高山地帯に多い生き物で、環境指標生物の1つでもある。
世界中に生息し、日本ではイワタケのほかウメノキゴケ、サルオガセ、バンダイキノリなどが知られている。
木に生える「パンのジャム」
そのなかのバンダイキノリのWikipediaのページを読んでいた時、不思議な記述を見つけた。
“青森県南津軽郡平賀町(現在の平川市)では「パンジャム」とよび、米のとぎ汁であく抜きしてから食用としている”
Wikipedia「バンダイキノリ」のページより引用
地衣類を食べるのは世界でも東アジアのごく一部らしいのだが、イワタケと比べるとはるかに知名度が低いバンダイキノリについても食べる文化があるのは意外であった。
でもそれよりも、何だこの地方名?
パンジャム……? どういう意味だろう。
調べてみたかったが1次資料を見ても語源は不明となっており、またググってもそもそもパンジャムという名称自体がヒットしない状況でどうしようもなかった。
なんにしても、一度食べてみたいものだ。
そう思いつづけていたのだが、先日シャグマアミガサタケを探して高山地帯をうろついていると、道に落ちている枝にもじゃもじゃがついているのが見えた。
こ、これは……バンダイキノリでは!?
あわてて見上げてみると、
カラマツやブナの幹に、大量の地衣類がついているのが見えた。
よく見れば目の前の岩肌にも。
しかも何種類もあるようだ。
木の高いところに生えているものは採取が難しいので、そのまま道路を歩いて倒木や木の枝に出ているものを拾い集めた。
ホクホクした顔で車に戻り、家路を急いだ。
「パンジャム」を調理して食べてみた
今回採取してきたものは、どうやら3種類ほどに分けられるようだ。
テングサみたいに細くて頼りないものがおそらくバンダイキノリ、枝が太くて先がとがっているものはヤマヒコノリorツノマタゴケ(背腹性が無いのでヤマヒコノリかな?)、もうひとつはよく分からなかった。
この類はあまり区別せずいっしょくたに食用にされているらしいので、同じように調理して食べてみることにした。
まず、水に浸して柔らかくする。
濡れると柔らかく、テングサと似た手触りになるが、臭いはとくにはしない。
アクが強く、指先に色がつくほど。
これを米のとぎ汁でことこと煮る。
2時間ほどのんびりと煮てザルにあげてみると、不思議なことに突然ヨード臭のようないわゆる海草臭が出てきた。
これを丸1日流水に晒す。
3日晒せという文献も見かけたが、いずれにしてもかなりアクが強いのだろう。
これでいいのかな?
臭いも見た目も色も完全にテングサ系のそれになった。
海藻と地衣類はそこまで近い存在ではなく、生息場所も全く真逆なのだが、結果として非常に近い形態になったのはとても不思議だ。
これも収斂進化ということになるのだろうか。
ポン酢をかけて食べてみよう。
いただきマース
…(・~・)
これは……髪の毛だwww
毛玉を口の中に入れてしまった時のもしょっとした感じがありぎょっとするが、噛んでいるとオゴノリに似た食感と歯切れで「ああ、食べ物なんだな」と認識できる。
味はほとんど無味で後味にエグ味があり、美味しいわけでもないがかといって不味いわけでもない。
ヤマヒコノリのほうはどうか。
…(・~・´)
お、これちょっといいカンジ。
茎が太いが柔らかく、より海藻的な味わいになった。
エグみも弱く、ポン酢だけでも美味しく食べられる。
もうひとつは……
見た目通り、バンダイキノリとヤマヒコノリの中間的な味わい。
総論的に言えばどれもザ・珍味と言ったカンジの味わいで、懐石料理の小鉢として出てきたら「珍しいものを食べさせてもらったなぁ」と嬉しくなりそうだ。
そういう意味ではイワタケとほとんど変わらないかも。
味:★★★☆☆
価格:★★☆☆☆
結局パンジャムの理由はわからなかった
でもなんでこれがパンジャムと呼ばれるようになったのかは、食べてみてもさっぱり見当がつかなかった。
古くからそう呼ばれているようすだし、パンやらジャムやらは関係ないのではないかという気がする。
青森県にお住まいの方、語源などご存知でしたらぜひ教えていただけると嬉しいです。
今回はやらなかったけど、この食感ならアク抜き後に天ぷらにするのが一番美味しそうだ。
「パンジャムの天ぷら」……カオスすぎて流行りそうな気がするぜ。
コメント
これは面白いですねー!よく見るアレ食べれるんですねぇ。
ポン酢の食べ方、叩いた蕨とか混ぜてとろみを付けても美味しいかもと思いました。
でも髪の毛と言われてテンションだだ下がりですw
子供のころカーチャンの料理に髪の毛入ってた時の気分の悪さを生々しく思い出してしまいました・・・
地面に落ちてるキノコとか平気で食うのに髪の毛が気持ち悪いってのも
変な気はするんですけどね。
とろみもそうですけど、味付けももう少し濃いほうがいいですね。甘酢とか、酢味噌の方が良かったかな。。
その生々しさが初めに一瞬だけ感じられるんですけど、その後は普通の海藻チックな食べ物なので、慣れれば大丈夫だと思いますよ。ヤマヒコノリは髪の毛感もないのでよりオヌヌメです。
「パンジャム」という呼び名の由来…。真っ先に「パンジャンドラム(イギリスの変態兵器)」を連想してしまった私には残念ながら全くわかりませんね。
東北地方の方言に詳しい方ならわかるのかもしれません。
ちなみに九州の田舎者である私は、イワタケという単語から「吉作落とし(鬱日本昔話)」をまず思い浮かべてしまったんですが、その昔話からイワタケっててっきり断崖絶壁に生えていて採取は命がけの作業なんだなって考えてたところ、この記事からすると割と簡単に採れるみたいですね。
パンジャンドラムググってみましたがwwwとしか言いようがないですね。なんだこれは、たまげたなぁ……
吉作落としはホント鬱なだけのストーリーですが、昔から「岩茸採りには宿貸すな」なんて言葉もあるくらいで、危険な仕事だったのは間違いないです
僕の持っているイワタケポイントは、登山道の脇にある切り立った岩にイワタケが発生しているようなところなので、身長+腕の範囲内に出ているものであれば誰でも採れます。
初めまして。
いつも更新楽しみにしております。
パンジャムの由来ですが、どうやらパンジャムではなくバンジャムと呼ぶこともあるようです。
バンは磐梯から来ているとしてジャムですが、津軽弁で髪の毛のことをじゃんぼと呼ぶ地域もあるそうで……
バン(だいの)じゃん(ぼ)が鈍ってバンジャムと考えたのですがいかがでしょうか。
ムムム、有益な情報ありがとうございます。ジャムが髪の毛由来というのは極めて納得できる説明です。地衣類ではなく菌類ですが「ヤマンバノカミノケ」という生物もいますしね。
エイランタイ(依蘭苔、依蘭はアイスランドの漢字表記)という地衣類の食レポを読んでみたいです。
デンプンに似た多糖類を生成・含有するところから、アイスランドではスープに入れたりパン生地に入れてパンに焼き上げたりして食してきたそうです。
アイスランドから直送もできるようですよ。