みなさまは、ご近所のスーパーや鮮魚店で「イズミダイ」という名前の魚が売られているのを見たことはないでしょうか?
最近は食品偽装に厳しくなったこともあり少なくなりましたが、かつてはティラピアを「イズミダイ」の名前で売ることがしばしばありました。切り身の見た目がまあまあ似ているため、代用品として用いられたのです。タイが高級魚で常に需要があることも、日本にいない熱帯魚であるティラピアを養殖しようというモチベーションになったようです。
ただその後養殖技術の発展が進み、タイ類の養殖も盛んになり、価格が下落。わざわざティラピアを養殖する必要もなくなり、やがて忘れられていきました。
ティラピアは刺身で食べる価値がある?
そんなティラピアですが、うちの近所にスーパーには今でも時々入荷します。偽装と叩かれるのが怖いのか、「イズミダイ」ではなくティラピアの名前で売られているのですが、驚くべきことに刺身用として販売されています。
そういえばかつてティラピアをよく食べたよという人の話を聞くと、大体「鯛の刺身だと思って食べていた」というのです。つまりこの魚、基本的には刺身で食べるものだったということ。
しかし、養殖ものとはいえ淡水魚、しかも温水に棲む魚を生食するというのはリスクはなかったのでしょうか。淡水魚生食のリスクを低く見積もっていた時代のこととはいえ、気になります。
そもそもティラピアはタイとは縁もゆかりもなく(ベラ亜目)見た目はともかく味は全然違うのでは?
これはやってみるしかない。やってみましょう。
ティラピアを刺身で食べてみた
とはいえ。。
今回のティラピアは養殖物ですらなく、排水の流れる水路で釣れたもの。多少潮の影響を受ける水路ではありますが、以前食べたフナとは違い、寄生虫のリスクはそれなりにあると思います(スズキ目なのでコイ目魚と同じような寄生虫がつくのかどうかはわかりませんが)。
ということでそのまま生食するわけにはいかないので、いったんカチカチに凍らせます。
うちの冷凍庫は急速冷凍モードを使えば―30℃まで下げることができます。その状態でまる2日凍らせれば、日本の淡水魚につく寄生虫類は死滅させられるはず。
パーシャル室に入れてゆっくり解凍し、流水でよく洗ってから水分をすっかり拭き取ります。
これを三枚におろし、
背身は皮を引いて厚めのそぎ切りに。血合いの色がやや鈍いですが、身のピンクさや質感はなるほど、確かに鯛ですね。マダイよりはクロダイに近いと思います。
腹身はあえて皮を残し、バーナーであぶって焼き霜に。淡水魚は皮目に臭みがたまるため、水質があまりよろしくない場所で採れた魚の場合、一般的には皮を剥いで調理します。つまりこれはぼくのティラピアに対するいわば挑戦、世界中で愛される食用魚らしいところを見せつけてほしいという祈りでもあります。
盛り付けて、完成!
うーん、見た目は……やっぱりタイっぽい。少なくとも海水魚だとは思ってしまいそうです。
血合い、肉質、筋の入り方。肋骨や血合い骨などが太くて硬い一方で、コイ目魚のような細い小骨が全くないのもやっぱりタイっぽいな。
醤油をつけて、いただきまーす。
……ふーむ。なるほどねー
まず、最大の懸念点と思われる「臭み」ですが、ありがたいことにあまりないです。特に焼き霜造りのほうは全く臭みを感じず、皮のゼラチン質と相まってなかなか美味です。
逆に背身のひれ寄りの部分に、ちょっとだけ藻っぽい臭みがあるっちゃある。淡水魚嫌いの人はちょっと食べつらいかも?
そして、質感と味ですが……これはちょっと評価分かれるかもです。
見た目こそタイではあるものの、タイの刺身に期待する「むちっとした歯ごたえ」「脂のコク」「濃厚な白身の旨味」はいずれもティラピアからはあんまり感じられません。サクサクぷりぷりで歯切れがよく、皮目は美味しいけど身は淡泊、脂もあまり乗っていないように感じます。
抱卵個体ではあるものの卵巣はまださほど大きくなく、海水魚であれば脂がたっぷりのっているはずのタイミングなんだけど……やっぱり温水の魚だからあんまり脂のらないのかしら。
熟成させたところで強いうま味が出てくるようにも感じられず。仕方ないので伊勢で購入したうま味が強い刺身醤油をつけていただきました。
味:★★★☆☆
入手難易度:★★★☆☆
代用たりうるのは見た目だけ、味は全く別って感じですね。淡泊さ加減にベラの仲間の面影を感じました。
やっぱり加熱したほうがよかろうと思いますので、次回はとある国の名物料理に加工してみようと思います。
コメント
我が家の近所でも一時期「イズミダイ」が刺盛りになって売られてました。
弟と「こう言う表記をして良いのだろうか」と話し合いました。
自分、正体がティラピアだと聞いて日和ってしまい、食べず仕舞いになってしまったので、食レポ興味深く拝読させて頂きました!
次回の加熱回も楽しみにしております。