カサガイの仲間について、このサイトで紹介することに少しばかりためらいがあった。
捕獲難易度の割に、成長にひどく時間がかかるためである。
どこの磯にもテトラポットにもくっついている彼らだが、1cm成長するにも数年かかってしまうほどで、アワビやトコブシと比べても成長はずっと遅い。
また、被覆藻類の少ない岩肌にしか生息できない(海藻が生育しているところには侵入できない)という性質があり、一度駆逐されてしまうとそこで再び勢力を回復することが難しい。
カサガイに限らずカメノテ、フジツボなどの固着生物「磯もの」については、節度を持って採りすぎないことが本当に大切なのだ。
それさえ意識しておけば、簡単に採れる割に味が良く、おすすめの獲物ではある。
マツバガイとベッコウガサ
さて、そんなカサガイの仲間で一番知られているのはマツバガイだろう。
海岸に行けば必ず一つや二つ目にすることができ、特徴的な放射状の模様と、最大8cm程度と非常に大きくなることから存在感がある。
上記の性質から、増設された堤防やテトラポットなどにも大量に生息しており、身近な存在だ。
外洋に面した磯の潮間帯には大型のものが生息する。
殻長7cmほどあり、殻の上にフジツボや海藻類が生えて、放射状の模様が完全に見えなくなっていた。
これは一見すると保護色のようにも見えるが、岩の上の藻類はこの貝自身が食べてしまっているためつるっつるで、殻の上にだけ海藻が生えているので逆に目立ってしまっている。
1個体で1平方メートル以上の面積の藻類を食べるのだから、意外とよく動くのだなぁと言う印象だ。
また、マツバガイが棲息する水深よりもやや上、満潮時に辛うじて水面下にあるような辺りには、同じカサガイ目のベッコウガサが生息する。
こちらはマツバガイと比べて殻の面積こそ小さいが、高さがあってよく目立つ。
この二種は水深の面で互いに棲み分けているようだが、同じような場所に生息しており、とくにベッコウガサについて知らないと、同一種として扱われてしまうことがあるようだ。
この2種はどちらも食べることができるが、いくつかのウェブサイトで「ベッコウガサの方が美味しい」という記述がされているのを見つけた。
どちらかというとマイナーな方がより美味しいというのはしばしばあるが、本当だったら儲けた気分になれる。
ぜひ試してみたい。
マツバガイvsベッコウガサ 刺身食べ比べ対決
純粋な味の良さ、最適な料理の方向性を見るためには、生で食べるのは欠かせないと思う。
マツバガイを刺身にできるの?と訝しむ人も多いと思うが、意外とポピュラーのようで、ぼうずコンニャクさんをはじめたくさんの人が挑戦している。
作業は生臭くならないうちに迅速に。
まず、身に大量の塩を振り掛け、身が締まってから流水でよく洗い、ぬめりをよくとる。
スプーンの柄や金ベラなどを差し込み、身を殻から剥がす。
黒い内臓を親指の爪で剥がし、口のところに詰まっている唾液腺(白い筋状のもの)を爪で扱き出して捨て、再び流水でよく洗う。
ここで注意してほしいのは、決して前から見てはいけないということ。
パッチリまつ毛と豚鼻がラブリーで、情が移ってしまう。
この時点で比較してみると、マツバガイの方は身が灰色がかっているのに対し、ベッコウガサは黄色味が強い。
また身の厚さもベッコウガサの方が勝っているようだ。
あとは適当な大きさに切って、殻に盛れば完成。
さっそくマツバガイの方から食べてみる。
…(・~・)
…
生臭いな…
良くアワビになぞらえられるコリコリとした歯ごたえ、磯の香りは評価できるものであるが、いかんせん生臭い。
軽く湯通しすると生臭みは落ち着いたが、身の味が思ったほど感じられなくて残念。
酒蒸し、バターソテーなどでとてもおいしいのは知っているので期待していたのだが…
まあ、火を通して食えということですな。
味:★★☆☆☆
価格:★☆☆☆☆
続いてベッコウガサ。
…(・~・*)
…
お、身が甘い。
やはり生臭みこそあるが、身がマツバガイよりも明らかに甘く、身が厚いために歯ごたえもしっかりとしていて美味しい。
ぬめりを落とす程度に軽く湯通しすると、抜群に良くなった。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
採りたてのアワビや、美味しいホラガイのような甘味ではないが、サザエと比べるとこちらの方がおいしいという人も多そうだ。
カサガイ類に関して言えば、刺身という食べ方はそれほどおススメできるものでもないが、一度試してみたいという人がいればぜひベッコウガサの方でトライしてみてほしい。
手間を惜しまないなら軽く湯通しして、ぬめりをよく落としてから軽く冷やすとより良いだろう。
マツバガイを食べるならとりあえずは酒蒸しかバターソテーが良いと思います。
生はあんまり美味しゅうない。
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