ニシンの群来(くき)のシーズンになりましたね。
今年はそこそこ多く接岸しているそうで、半ば伝説であるかのように語られた「ニシンの精子で海が白く染まる」様子も場所によっては見られたそうです。
東京のスーパーでもニシンの入荷は多いようにみえるなー。まあお刺身にできる鮮度のものがなかなか無いので購入することはないんだけど(;´∀`)
ぼくらの食べている数の子はニセモノ?
さて、そんなニシンの卵を加工したものがご存知数の子。
正月に食べない人は殆んどいないんじゃないでしょうか。最近では高騰が著しく「黄色いダイヤ」なんて呼ばれることもあるそうです。
黒いダイヤが当たり前に採れることがわかった現代日本において、「ダイヤ戦隊」のなかでは一番高価かもしれません。
ちなみに赤いダイヤはイクラ、緑のダイヤはただの宝石、青いダイヤはトイレの洗剤です。
そんな数の子ですが、正月にスーパーの鮮魚コーナーに並んだカズノコを見てその高さにビビり、パッと見安価なものを見かけて購入し、口にしてそのしょっぱさにギャーっとなった人ってけっこういるのではないでしょうか。ぼくはアホなのでしょっちゅうです。
というのも数の子は基本的に塩漬けの状態で保存されており、おせちなどに入っているものは「塩抜き→調味液に漬けて味付け」という加工が行われているものなのです。この加工費も乗っかるので、味付け数の子はお高いわけですね。
しかし、実はこの塩漬け、もともとは邪道だったという説があります。江戸時代までは一般的な方法ではなかった。
北海道でとれる魚を江戸に運ぶにあたり、生でおいておくわけにはいかないのですが、一体どんな手を使ったのか。
それは、乾燥。
本来、数の子はかちんこちんに干した状態で保存され、それを調味液で戻して食べるものだったそうです。乾燥保存は塩蔵保存と異なり、卵の旨味を含んだ液が析出してしまわないためより美味だというのですが、しかしあまりの手間のためにより手軽な塩蔵にとって変わられたとのこと。
乾燥ものの味を知ると塩蔵は食べられない、なんて人もいるらしく、話を聞くたびに歯噛みしていました。
乾燥数の子を食べてみた
しかし前日、倉敷の高級食材店で偶然出会うことができたのです。
見つけた瞬間は数の子とは気づきませんでした。
なにせこの
大きさ。おままごとセットのオモチャの数の子みたいなサイズと薄さ。
あるいは砂糖でコーティングしたグミ菓子のような……
おつまみとして売られており、あじもつけられているので、まずはそのまま食べてみます。
……(`・皿・´;)硬ってぇ
いや、別に歯が立たないようなカチカチではないんです。噛み切れるんだけど弾力がすごい。あとペラッペラなのにめっちゃパリパリします。数の子のあのパリパリ感がこの厚みに凝縮されている……
そして味がめちゃくちゃ濃いです。圧縮された香りが圧縮された粒のなかから弾け出します。後味を締める僅かなエグみもはっきり立っていて……これはおかずじゃない、お酒のお供だわ。
というわけで、これを水や調味液で戻すなんて無粋なことはせず
日本酒で戻しました。いわゆる酒びたしです!
いただきまーす
……(;∀;)感動のうまさ
やべーなこれは……これが正解だわ。
卵の一粒一粒の間に、まるで細胞液のように染み込んだ日本酒が、バラバラに立とうとする香りと味をひとつにまとめて、臭みやエグみをクリーンにしてから気体にして口のなかに充満させます。
食感はより柔らかく舌馴染みよくなり、まるでハリボーからコロロへと生まれ変わったよう。
これは絶品すぎる酒の肴……
味:★★★★★
価格:★★★★☆
やべーこれめっちゃ自作したい。しかし関東にくる数の子はすべて塩蔵済みだから今からどうしようもないんだよなぁ。ニシン釣るしかないか……
コメント
ねぇねぇ、いまさっきスーパーで頭落とした生ニシン見かけたんだけどさ、白子と真子が詰まってる状態で売られてたンよ。
刺身で食うってンならまだしも、真子ならばワンチャンあンじゃね?
それはもう買うしかないやつですね!
いつも楽しく拝見してます
この記事を見て思い出したのですが、福岡には「数の子は竹の子の親類」という民話があります。
内容をざっくりと説明しますと、博多で数の子を食べてその味に感動した男が干し数の子を買って郷に戻るのですが、その硬さに歯が立たずやむなく竹林に捨てると数日後にふやけて食べられるようになっており、その事から男は「数の子は竹の子の親類なので、数日竹の根元に置いておかないと食べられない」と講釈して村人に振る舞った、という話です。
実際に試すのは衛生的な問題で難しそうですが、話の種にでもなればと思いご参考までに。
文才溢れる記事の更新、いつも楽しみにしております。
水産会社でニシン卵の取り扱いを長年しております。
水差すようで誠に申し訳ないのですが、写真拝見する限りこれは本物の干し数の子ではないかと存じます。
おそらく、数の子バラ子(卵をほぐしたもの)をトランスグルタミナーゼで決着した成形数の子を味付けして、乾燥機で干したものです。砂糖が析出して甘納豆のように白く粉を吹きます。確かにグミみたいな食感に旨味があり、珍味としては申し分ないですよね。
サイズがこれだけ小さいのは元が成形卵だからです。
本物の干し数の子は、卵が櫛状になっておりもっと大きく、完全な塩蔵品ですからカッチカチな上に、塩抜きしながら戻すのに1週間はかかります。味は至高品、ただ㎏ウン万円もする木箱に入った超高級品です。
ぜひ食べてみていただきたいのは、干し数の子もそうですが握り子と生造りと言われる品です。
通常の塩蔵数の子は冷凍ニシンから腹出しをして卵を飽和塩水に漬け込んで作りますからワンフローズンなんですが、
握り子は資源調査船が卵率を測るために生から腹出した卵を飽和塩水に漬けるので、見栄えは悪いですがキュっと卵が縮みます。
生造りは抱卵ニシン丸ごと飽和塩水に漬けて塩締めし、腹出ししたものをさらに飽和塩水に漬けるので縮まずに羽の形もよいです。
出来た塩数の子は塩水ペール缶に入れて冷凍保管しますが、飽和塩水は凍りませんので、握り子と生造りはノンフローズンで塩数の子が出来る訳です。
これはニシンの脂の旨みや香り、色味含めて格別で、業界関係者の間ではこれが1番という人も多いです。ぜひこちらを食べてみていただきたいです!
あとは産地や海域で卵質やサイズ感が違ったり、無漂白/漂白の違いなどと、かなり数の子は奥深く面白い世界です。
長々と失礼しました、ご参考までに。
すみません、返信が遅くなりました。この度は間違いをご指摘いただき本当にありがとうございます。また、貴重な情報をありがとうございました。
よいタイミングでニシンが手に入ったので、教えていただいた「究極の数の子」についてトライしてみようと思っています。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/54948_48391.html
これはちょっと戻してみていただきたかったかなぁって…