キノコの同定にはそれなりに自信を持っているが、山菜の同定はいまだに苦手意識がある。
特に新芽を食べるものは非常に難しい。
シシウドの例をはじめ、昔から幾度となく痛い目にあってきた。
高校ぐらいのころは現在にも増して食い意地が張っていて、春になるとあらゆる木の芽、草の芽がすべて山菜に見えていた。
今と変わらないじゃん、という人もいるかもしれないが、当時は本当にひどかったのだ。よく無事に大人になれたものだ。
食べられるセンダン?
そんな当時のある日、トゲナシタラノキ(メダラ)と間違えてセンダンの新芽を採取してきたことがあった。
改めて見ても「複葉」と言うこと以外さっぱり共通点のない2種であるが、展開していない状態の葉は似ていなくもないと思う。
センダンはどちらかと言うと南の方に多いと思われる高木で、福岡に住んでいたころは河川敷や明るい林縁でよく見かけた。
タラノキと違って大木になり、全体に弱い芳香があるので材としても珍重されるらしい。
その時はさっとゆでておひたしにしてみたのだが、強烈なえぐみ苦味があって食べることができなかった。
「やっぱり天ぷらにしないとダメなのかなぁ」なんてのんきなことを考えていたのだが、後日ネットを見ていて間違いを知った。
葉や芽についてはわからないが、果実には毒成分が含まれており、大量に食べると死に至ることもあるらしい…全く無事でよかった。
タラノキやコシアブラなどウコギ科は独特の青っぽい匂いがあるので今ではそれで見分けるようにしている。
センダンはヨモギやゴマっぽい香りがするので、それさえ知っていれば間違えることはないだろう。
さて先日、昼休みにいつものようにアメ横センタービルをぶらぶらしていると、見たことのない野菜を見つけた。
香椿と書いてあり、1パックで380円とタラノキやコシアブラと同じような「山菜価格」で売られている。
どこの言葉かもわからない言語でまくし立てている店員さんに勇気を出して問いかけてみると、実に流暢な日本語で「これはチャンチンと言う中国の高級野菜で、炒めものにして食べると美味いんだ」と教えてくれた。
面白そうなので2パック買ってみようとしたら、間髪入れず「3つで1000円でいいよ」と言われたので言われるままに買ってしまった。商売うまいぜ…
見た目は、毎年全国で誤食事件が発生する危険な毒草「ヤマウルシ」に実にそっくりである。
不安になって調べてみると、チャンチンはセンダン科の落葉高木で、中国に広く生息するほか、庭木や材木として日本でもかなり利用されているという。
センダンと聞いて昔の(文字通り)苦い記憶がよみがえってきた。
匂いを嗅いでみると、まさにセンダンと同じ香りがする。
「香りがいいんだ、だから炒め物が一番いい」という店員さんのアドバイスが脳内をリフレインするが、ちょっと躊躇してしまう。
「まあでも、初めてフーチバージューシーを食べたときもビビったけどすぐに慣れて美味しく感じたからきっと大丈夫だろう」という根拠のない自信により、トライしてみることにした。
チャンチンを食べてみた
さっと洗ったチャンチンをざっくりと切る。
切ったとたんに台所が強い香りに包まれた。
センダンと似たゴマ様の香りだが、もう少しエキゾチックで、青みの強いえゴマの葉のような香りがする。
フライパンに油をひいて炒り卵を作り、チャンチンを入れて強火で炒める。
ここで匂いがさらに強くなる。
完成。
ちょっとなじみにくい香りがするが…
(・~・;)…
…
まず、歯ごたえが非常にいい。
タラの芽に似ていて、カリカリサクサクとしてしわさがない。
ナッツの様なコクもありジューシーで味が濃い。
香りは…意外とイケなくもないが、でも食べ続けていくうちに鼻が疲れてしまいそうだ。
なにより脳みそが「これホントに食べていいの?」と疑惑を発し続けている。
そして冷めていくと同時にえぐみや苦みが復活してしまい、ちょっといただけない。
タラノキやコシアブラよりも、同じウコギ科の山菜でもっとえぐみの強いハリギリに風味は似ている。
天ぷらにするか、炒めるなら一度茹でこぼしてからにしたほうが、日本人の味覚には合いやすいかもしれない。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆ 春の珍味としては十分にアリ
もしかして、センダンの新芽も山菜になる?
いろいろ調べていると、タイでもセンダンの仲間のニーム(インドセンダン)の新芽を食べる習慣があるということが分かった。
こちらはチャンチンよりも苦みが強そうだが、利用されているという。
ひょっとしたら日本のセンダンも新芽はイケるのかもしれない。
チャレンジャーを自認する皆さん、よかったら自己責任で挑戦してみてはいかがでしょうか。その際はくれぐれも自己責任でお願いします。
コメント
こんにちは、初めまして。
最近こちらのサイトを発見し、軽妙な文章と、対照的に、学術的な見地からの分かりやすい食材の解説に引き込まれ、昔の記事も含めて色々と楽しく読ませて頂いております。
こちらの記事を読んで、20年以上も前でしょうか、タラの芽が山菜の王様として目立ち始めた頃、母親に「あれ、タラの木ちゃうか?芽の形もよー荷とるわ、あんたあれ採っといでー天ぷらにしたるで」と言われ、随分と高さのある木によじ登り、枝の先っぽにポン、ポンとふいた芽を必死でむしり取ってはビニール袋に入れて集めた記憶があります。天ぷらにしたものを食わされ「うん‥これが王様か‥」と子供ながらに思ったことを今でも覚えています。
この記事を読んで確信しました。
あれはセンダンの木だ。