先日、とある温暖な地域でたこあつめに興じていると、岩肌にへばりつくように生える黄緑色の植物が目に入った。
どこか人工的な、プラスチックで造られているかのような光沢がある独特の風貌のこの草は、セリ科のボタンボウフウという植物で、山菜の一つとして数年前から好事家の注目を浴びている。
規定量(3匹)のタコが集まったので、たこあつめを終了し、それを採取していくことにした。
「○○ボウフウ」というと、多くの人がまず思い出すのはハマボウフウだろう。
砂浜海岸に埋もれるように生育し、刺身のつまや天ぷらなどで人気があるため現在では栽培もおこなわれている。
ボタンボウフウとハマボウフウは同じセリ科の海岸植物ということもあり、ぱっと見は少し似ている。
生育場所が違うのと、ハマボウフウの方が光沢が強いこと、ボタンボウフウの方が株立ちして大きくなることなどで慣れればすぐに見分けられる。
また、生育場所や株立ちのようすは、やはり同じセリ科で海岸植物のアシタバとも似ている。
生育地域も重なるので同じ場所に生えていることも多いが、アシタバでは複葉の鋸歯が鋭くなるのに対しボタンボウフウは丸っこいことで見分けられる。
ハマボウフウもアシタバも、野菜の仲間入りを果たして長いので、そのあいのこのようなボタンボウフウだけが長らく取り残されていた。
しかし数年前から資生堂やタカラバイオといった大手製薬会社がその薬効に注目し、健康食材として売り出したため、年々その知名度を向上させてきている。
ボタンボウフウという名前は知らなくても、「長命草」という名前を聞いたことのある人は、健康食品クラスタの中には多いのではないだろうか。
南部九州や南西諸島では自生量が多く、昔から食用にされてきており、長命草やサクナと言った名前で親しまれているのだそうだ。
細かい薬効成分に関しては産地ごとの変異があるようなのだが、それでも健康食材としてはそれなりの信頼性をもつものとして考えられている。
ボタンボウフウは上級者向け過ぎる味わい
と大仰なご紹介を連ねてしまったが、実はこの草、千葉県以南の太平洋側にはごくふつうにみられるものだ。
「うそだ、テレビショッピングで『幻の』って言ってた!」
って言う方ご安心を。僕もそれ、何度か見ました。
でも生えてるからしょーがない。
今の時期、大きな株の中心から伸びてきた新芽がきれいな黄緑色でとてもよく目立つ。
これほど注目されていればあっという間に採りきられてしまうのではないかと思えるが、僕の活動範囲でこの草が採られているのを見たことは皆無である。
本土ではあまり利用されないアシタバやツワブキが採られている場所でも、ボタンボウフウが採取されていることはまずない。
理由は明らかである。
セリ科の植物には、代表種であるセリやミツバをはじめパセリ、セロリ、フェンネル、チャービル、キャラウェイ、クミンなどがある。
いわゆる「ハーブ」「薬味」と言われる野菜が非常に多いのだ。
多くの種に共通して「強い芳香を持つこと」と「繊維がとてもしっかりしていること」という特徴を持ち、これが食べる人を選ぶ。
苦みを感じるものも多い。
セリやアシタバも、その独特の芳香が苦手で食べられないという人は少なくない。
僕はセロリもパセリも大好物で生でバリバリ食べてしまうのだが、シシウドの強烈な香り(と苦み)は3年塩漬けしたものでも耐えられなかった。
そしてボタンボウフウであるが、その芳香は(個人的な感覚でいうと)アシタバの数倍強い。
セロリが苦手な人に食べさせたらもんどりうって昏睡すると思われる。
加えて繊維質もかなり強烈である。
見た目も固そうだが実際に固く、口の中でわしゃわしゃと主張するのだ。
食材として長く認識されてきた地域では食べられるだろうが、そうでない地域に突然この植物を食べる文化が出現するということは、その薬効成分を考えてもまずないのではないかと思う。(ニガウリみたいな例もあるので断言はできません)
僕も実は九州に住んでいるときに一度挑戦しているのだが、茹で上がった蒸気の濃厚な香りに圧倒されてしまい、残念ながら美味しく食べることができなかった。
しかし今回、久しぶりに挑戦することにしたのは、とある勝算があったからである。
香りを持ってセリ臭を制す
「長命草」でググると、幾つかのサイトでそのレシピが紹介されている。
中にはお浸しや青汁で食べてしまう猛者もいるが、やはりクセを抑えて食べやすくすることを主眼に考えている調理法が多いようだ。
その中でまず一つ、イケそうだなと思ったのが「オリーブオイル和え」だ。
レシピは簡単で、ボタンボウフウを茹でて
水気を切って
エクストラバージンオリーブオイルと醤油で和えるだけ…なのだが敢えてクレイジーソルトでやってみたり。
(・~・)…
うん、これはこれで、個性があっていいと言えるかもしれない。
もちろんセロリがダメな人は全くダメな味わいだし、セリ科の香りが好きでないとこれが美味しいとは感じられないだろう。
しかしある程度山菜を食べ慣れていて、コゴミのようなくせのないものに飽きてしまっている人なら逆に新鮮でおいしく感じられるかもしれない。
歯応えもしっかりとしていて「いま、野山の恵みを食べている!」という実感がある。
味:★★★☆☆
価格:★★☆☆☆
そしてもう一つは、ずばり「ヤギ汁」である。
沖縄料理の一つとしてポピュラーなヤギ汁であるが、いわゆる獣臭がかなり強く、苦手な人は全く受け付けないものだという。
僕も、食材の魚臭さはほとんど気にならないのだが、クジラ肉やジビエのような食材はかなり上手に匂いを消さないと食べられない。
そのため、しばしばヨモギ(当地ではフーチバー)が匂い消しに用いられるという。
その役割を、同じ沖縄食材であるボタンボウフウに与えてみたら、意外とうまいこと働いてくれるのではないか。
そう期待したのだ。
まずはおなじみアメ横センタービル地下で、骨付きの山羊肉を購入。
これを煮たてながら丹念にアクをとり、圧力鍋に移してさらに煮倒す。
マトン肉をさらに強烈にしたような強い香りが台所に広がる。
汁が減ってきたら、一度冷まして表面の脂を取り除き、雪平鍋に移してもう一度煮たてる。
あげる寸前に刻んだボタンボウフウを大量に入れ、塩で味を調えて
獣臭さはいくぶんマイルドにはなったが、しっかり残っている。
特に皮のゼラチン質の部分はなかなか強烈な匂いだ。
しかし、ボタンボウフウと一緒に食べると、クセが消えて「個性」と呼べるような美味しさに変化する。
ボタンボウフウのクセも全く感じられなくなり、香りはむしろさわやかさにすら感じられ、後味のわずかな苦みがこちの中に残るヤギの脂のしつこさを消し去ってくれる。
沖縄のヨモギはこちらのものと比べて匂いが穏やかで、食材に使いやすいが薬味にはやや物足りないという人もいるかもしれない。
そんな人にはボタンボウフウがばっちり合うだろう。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
ボタンボウフウは和製フェンネル?
ということで、ボタンボウフウの強烈な香りは、薬味として使うと最大限に生かせるのではないかという結論に至った。
オリーブオイル和えも悪くないけど、やはり「ハーブを無理してそのまま食べてる」というカンジがしてしまう。
セロリをサラダで食べるのが無理な人には、全く不可能な食べ方だ。
匂い消しの能力を知ると、セリ科の植物は薬味・ハーブとして天から与えられたものではないか、とすら思えてくる。
いずれにしても有用な植物であることが実感できた。
今後、さらに検証を続けて、フェンネルやクミンのような使い方ができないか、確認してみたい。
コメント
そのへんのコンクリの隙間とかからモサモサ生えてたやつですよね。
以前一度だけ食べてみて、あまりの繊維質にダメだこりゃと思って以来、摘んでません。
乾燥して粉にすればいい感じになるんでしょうかね。
フェンネルは多用する人なので、近いものになるなら試す価値はあるかな。
せつなさんは食べてるだろうなと思ってましたw
粉にするのはいいと思いますね!やってみようかな
植え込みにも舗装道路にも生えて完全に雑草化してますからいくらでも採れますし、栄養価の高さは保証されてますからね。
はじめまして!何か調べ物してたら辿りついて古い記事も楽しく読んでいます。
毎年、久米島に行くのですが島の山羊汁はフーチバーではなくこのボタンボウフウが入ってます。現地ではサクナと呼ばれています。
そばの麺に練りこんだサクナそばもなかなかですがかまぼこの中にサクナ入れて揚げたやつを飲み屋で食べましたが絶品でした。
海岸沿いに自生していましたが小さい葉っぱの方が香りも爽やかでいけてましたよ。
初めまして!コメントありがとうございます。
やはり!本場でもヤギ汁に入れてましたか。我ながらさすがw
調べてみると揚げたやつは結構イケるようですね。
蕎麦に練り込んだり、かまぼこに入れてみたり、扱い方が伊豆諸島のアシタバと似ていますね。
今度若い芽が採れたらやってみようと思います。
初めまして、いつも楽しく拝読させていただいております。
この記事を読んで、三浦半島に行った折に採取して来ました。
確かに強烈な香り、フェンネルの様ですね。なのでみじん切りにしてイワシのペペロンチーノにしてみました。ボタンボウフウの香りがイワシの匂いと油っぽさを見事に打ち消しとても爽やかな味になりましたよ。
暑い日が続きますのでどうか体調にお気をつけてください。
コメントありがとうございます!
ペペロンチーノ!美味しそうですね。。
何となく、肉系の料理には合うんじゃないかと思っていたのですが、魚介にも合うのですね!今度さっそく試してみたいと思います。