魚卵を食べるという行為はなかなかに罪深い。
倫理的な部分でのみならず、生態学的にも卵や抱卵している雌成体を食べてしまうことは、その種にとってダメージがデカい。
繁殖期に入っている魚の釣りや漁獲に対して、これほどまでに野放図なのは先進国では日本だけ、という話も時に耳にする。
何らかの規制や保護政策が必要なのは間違いない。
しかし非常に残念なことに、魚卵は美味い。
イクラからトビコまで、回転寿司屋さんに行くと必ず頼んでしまう。
もし自分が痛風になって魚卵を禁止されたらちょっと発狂してしまうんじゃないかと思うくらいに好きだ。
抱卵個体は身の味が大きく落ちるが、それもやむなしと思う。
あれだけ美味なんだもの。
魚は減ってほしくない。
でも魚卵は食べたい。
このジレンマを解消する妙手はおそらく存在しないので、自分は釣りの時は抱卵個体をリリースし、店頭購入の際は抱卵しているものを買うというダブルスタンダードを採用している。
本来なら抱卵個体を購入すること自体がよくないのかもしれないが、現在の漁獲ルール内で水揚げされ、既に野に戻るのがかなわないものに対して倫理のブレーキをかけるのは難しい。(漁獲制限の制度と厳しい監視システムが作れるならそうすべき)
アイナメの卵を食べる
さて、そんな罪深き魚卵食いの中でも、個人的に最もタブーに近いと感じられるのが「根魚」のそれである。
磯に着く各種の魚は成長が遅く、繁殖可能なサイズになるまで時間がかかる上、定着性が強いので、ある地域の生息数が減るとなかなか回復しないという傾向がある。
とくにアイナメは現在、生息数の急激な減少と小型化(大きい個体が漁獲されていなくなってしまうので)が進行し、資源量の不安が大きい。
抱卵個体や、生まれた卵を保護する婚姻色の雄が釣れてしまったら即座にリリースすべき魚だと思う。
とはいえ…
こんな腹パン個体が売られてたら、やっぱり買いたくなっちゃうんだyo!
アイナメの雌は産卵が近くなると「腹が裂ける」というくらいに腹腔内が卵巣でパンパンになる。
小粒ながらひとつひとつがしっかりとした膜につつまれた卵は、見るからにプチプチとして美味しそうだ。
観念してまな板に横たわるアイナメ。
本来ならまず鱗を落とすのだが、ちょっとでもお腹を押すと卵がこぼれ落ちてしまいそうだったので、まず腹を切開して卵巣を取りだすことにした。
卵巣の3割程度は未成熟だったが、それでも一粒一粒が輝くきれいな卵を得ることができた。
ここで匂いを嗅いでみるが、生臭さはほとんどないようだ。
ふつう魚卵はまずザルにあげてぬるま湯で洗うのだが、アイナメの卵はサイズが小さく、ザルの目から抜け落ちてしまいそうだったので、日本酒をさっと振り掛けて混ぜるように洗うだけにとどめた。
白だし、みりんと醤油で漬けダレを作り、卵に振り掛ける。
これで1時間ほど漬ければ完成。
ここで、比較のためにもう1種、別の抱卵個体を用意した。
ハタハタである。
「ブリコ」とよばれるハタハタの卵は粒が大きく歯ごたえがあり、秋田など水揚げが多いところでは珍重されている。
ブリコが無いとハタハタを買う意味がない、と言っている人も見たことがある。
これも、卵巣を割らないように丁寧に腹部を切開し、取り出す。
こちらは粒が大きく、また全体的にやや生臭い粘液におおわれていたので、湯洗いをすることにした。
軽く水洗いしたブリコをザルにあげ、50℃ほどの湯の中でさっとかき混ぜると
うお!真っ白になった!
イクラなども多少は白くなるが、ここまで色が変わると火が通ってしまったのではないかとやや不安になる。
湯で固まった粘液を取り去り、潰さないように流水でやさしく洗って水気をきり、漬けダレに入れると
すぐに色が戻ってきた。
ひと安心。
このまま1時間漬けて、こちらも完成!
アイナメ卵とブリコ、醤油漬け食べ比べ
こちらが完成したそれぞれの醤油漬け。
アイナメの卵もかなり粒が大きいと思ったのだが、ブリコと比べると俄然小さい。
トビコと同じくらいのサイズかな。
ブリコは生の表皮のエメラルドグリーンが消えてより魚卵っぽい色味になった。
いただきマース
…(~~~*)
どっちも美味い。
アイナメの卵はやっぱりトビコみたいな食感で、小さいながら皮がしっかりしていて舌の上でプチプチとはじける。
味はまったりと舌の上に貼りつくカンジの旨味があり、後味にわずかに渋みがあるがこれがまた魚卵らしさを出している。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
ブリコは大きさもさることながら皮が非常に分厚いので、プチプチというよりバチバチと言ったカンジで、噛み応えがしっかりしている。
味も非常に濃厚だ。
これはマジで美味い。
味:★★★★★
価格:★★★☆☆
アイナメは身を刺身にしたので、「子まぶり」も作ってみた。
ユダヤ教徒なら卒倒ものかもしれないけど、美味いです。
というかアイナメって抱卵しててもそんなに味落ちない気がするなぁ…
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
美味いんだけどね~やっぱり資源は大事
ということでアイナメの卵もブリコも、生でも大変美味しいことが分かった。
分かったけど…わかんないほうがよかったかも。
あんまり食べるべきじゃない(とくにアイナメ卵は)のは間違いないし、純粋に身を味わうなら夏のアイナメの方が美味しいしね。
サケみたいに資源管理をしつつ、魚卵も味わえる、みたいな仕組みができることは…ハタハタならありうるかも。
一度絶望を経験してるハタハタ漁師の皆さんなら、前向きに考えていただけるのではないでしょうか。
コメント
はじめまして、いつも楽しくblog閲覧してます。
自分も釣りが趣味で(瀬戸内海西部に生息)狙う魚種も根魚やイカをメインで狙ってます。
根魚の生育が遅いのって知らない人が多いんじゃないでしょうか?そのうちカサゴとかソイがアコウ並みに幻の魚になりそうで不安です( ̄▽ ̄;)
アコウは自分の住んでる場所では30センチ以下はリリースってなってますけど、これを守らない釣り人も多いような・・
コメントありがとうございます!
そう!意外と知らない人が多くて、釣り人にもいるのでびっくりします。
個人的にフサカサゴ科は20㎝、アイナメは28㎝未満はリリースするようにしています。
アコウもハタとしては小さい部類とはいえ、30㎝無いものって食べるところあまりないんじゃないかと…
お返事ありがとうございます!
自分もフサカサゴ科は20以下はリリースですね、あいつらただでさえ歩留まり悪いのに、小さいと更に食べるとこ無くなりますしね( ̄▽ ̄;)
そういや先日カナコギにやられましたw痛かったー。でも十六茶かけたら痛みが引くんですよねーw
十六茶wwwwそれはすごい!初耳です。今度刺されたらやってみよう
カナコギってハオコゼですよね?他の魚の刺毒にも効くんでしょうか、気になります!
鹿児島市は臨海部+テトラ帯+中心地という条件のため、カサゴ釣りをすると大半がチビばっかです。
良型は沖堤防か地磯行くしか方法がありません。
だいぶ釣り荒れてそうですよね。
でも錦江湾はそれ以外の魚が多いからいいじゃないですか。昔姉が鹿児島に居た頃、釣れた魚の写真を送ってきてとてもうらやましかった記憶があります。
最高に楽しい記事ありがとう!魚卵のとこよみました。私、実家が北海道で、5月に川に大量に遡上する、エゾうぐいを釣り、その卵を醤油漬けにしてみました。知る人は知る?珍味と言われてるらしく、魚卵は寄生虫入らないからオーケーだと、釣り人に教えてもらいました。旨かったです。
よく実家では、おひょうの卵、カジカの卵を食べてました。おひようは最近では手にはいりづらいですが。ぜひ、色んな魚卵やっちゃって、記事にして読ませてください。
ちなみに、イサキどーかなー?
こちらではマルタが例年多くの卵を産みますが、保護されているか放流されていることが多いので食べることはできないでしょうね。エゾウグイの卵、食べてみたいですね。
カジカは抱卵個体がこちらでもしばしば売られています。粒が大きくて美味しいですよね!オヒョウは身自体それほど流通していないからなぁ……
イサキはどうでしょうね。見かけたらトライしてみます。