亜高山帯の特別なキノコを採る

山地、丘陵地に恵まれている関東地方では、10月にもなれば各地の里山で大量の美味しいキノコが発生する。

しかし僕を含め多くの人は、富士山をはじめとした亜高山帯にキノコを探しに行く。
最近では富士山のキノコ狩りに(有名無実ではあるが)規制がかかっているので、大菩薩嶺や八ヶ岳方面まで足を伸ばすことも多い。

そもそも富士山以外ではキノコ狩りができない、とすら思っている人がいてびっくりすることもある。


多くの人にとっては「カラマツのハナイグチなど、里山ではあまり見られないものを大量に採取できるから」と言うのが理由になると思う。

でも僕はむしろ、同じキノコでも里山とは違う味が楽しめる、という点から亜高山帯に向かうことが多い。

 

特別な空気のなかで、特別なキノコを

亜高山帯の針葉樹林がまとう空気の独特さは、何とも形容しがたい。
しんしんと冷えた空気の中で、キツツキの打木音をBGMにふかふかのミズゴケの上を歩いていると、まるで天国に居るかのような幻想的な気分になる。

一面に広がるみどりの中にぽこっと顔を出したキノコを一つ一つ採取していると、この時間が永遠に続くといいのにな、という気にさえなれる。


そんななか不意に目の前に現れるのは
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タマゴタケ

7月の記事で「亜高山タマゴタケは別格」ということを書いたが、これに納得してくれるキノコ狩りストは大変多いのではないだろうか。
タマゴタケは里山どころか駐車場の端などにも発生するキノコなのだが、どうも雲の上に生えるものとは種類が違うのではないかと思う。

2015.7.22丹沢

2015.7.22丹沢


タマゴタケ,幼菌

2010.10.2富士山

2010.10.2富士山


2015.9大菩薩嶺

2015.9大菩薩嶺


低地のタマゴタケは赤が濃く、ときに紅色に近いのに対し、
亜高山帯のタマゴタケは傘の色の黄色が強く、印刷用語でいうところの「金赤」をしている。

タマゴタケの特徴と言われる「柄のだんだら模様」は亜高山帯のものでは薄く、ときに全くなかったりする。
タマゴタケ
大きさは低地産と比べて一回り小さく、柄の長さに比べて傘が小さいのでプロポーションが良い。

そして何より、味が全然違うのだ。

低山のタマゴタケでも十分に美味しいのだが、それからケレン味と雑音をひいて、旨味をよりシャープに立たせたような感じ。
これを食べた後だと、低山のタマゴタケはあか抜けていないように思えてしまう。

余計な手を加えずに、ごく少量のバターでさっとソテーにするだけで絶品である。
一説によると、ヨーロッパで珍重される「アマニタ・カエサレア」、通称“シーザーのキノコ”とこの亜高山帯のタマゴタケが近い存在なのではないかと考えられているようだ。



真っ赤なキノコがあれば、真っ黒なものもある。
クロカワ(ミヤマクロカワ)
亜高山帯のモミ・ツガ林に生えるクロカワは、近く「ミヤマクロカワ」という別種に再分類されると思われる。

多くの図鑑で「クロカワ」の項には
“アカマツと広葉樹の混生林の落ち葉の下に埋もれるように生え、色は灰色から黒(ときに淡い灰色)、柄は短く傘の肉はやや厚く、肉質はしっかりしている”
といったように記載されているが、亜高山帯のクロカワ(ミヤマクロカワ?)は
“モミ・ツガの純林のミズゴケに埋もれるように生え、色は淡い黒から黒、柄は長く肉が締まり、傘は薄く脆い”
という特徴を持つ。

味はというと、多くの人が「クロカワ」の方が上だというはずだ。
“ミヤマクロカワ”は一般的に苦みが強く、旨味が薄い、とされている…

のだが、どうもそうではないようだ。

今回、マツタケのように立派な“ミヤマクロカワ”をいくつか採取したのだが、
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残念ながら虫食いのものが多かった。
クロカワは虫にも人気があり、秋の初めに発生することもあって万全なものはなかなかない。
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その中で一つだけ、虫食いが皆無のものがあったので、試しに焼いて食べてみたのだが、
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もうびっくりするほど美味かったのだ。
苦みは弱く、七輪で焼いた時のわずかな焦げのように香ばしさを喚起させる。
一方で旨味はホンシメジに匹敵するほど強く、キノコらしい香りとエリンギのような歯ごたえがある。

これだけ“ミヤマ”ではなかった、というのも考えづらいので、おそらく虫食いと苦みの強さに相関関係があるのではないだろうか。
たとえば植物の「虫こぶ」に大量のタンニンが含まれているのと同様に、キノコバエなどの虫が子実体に侵入すると、苦み成分を大量に分泌するのではないか。
あくまで仮説だけど。



もう一つ、アカモミタケもちょっと違うものなのではないかと考えている。
丹沢など、里山のモミ林に出るアカモミタケは11月頃、モミと広葉樹の混生林に生え、触ると大量のオレンジ色の汁を出して手が染まってしまう。
さらには翌日の尿もオレンジ色になりぎょっとする。

対して亜高山帯のアカモミタケは9月頃に最盛期を迎え、ウラジロモミ林のミズゴケに埋もれるように発生し、オレンジの汁はあまり出ない。

アカモミタケ

色もちょっと薄い


どうもこのオレンジの汁に旨味が含まれているようで、汁気の少ない亜高山帯のアカモミタケはやや旨味が薄い。
一方で、里山のアカモミタケは傘の表面に落ち葉がこびりつきやすく、流水でごしごし洗っているうちにこの汁を流してしまい、食べてもあまり美味しくなかったと感じる人が多いようだ。
採取する時は霧吹きを持っていき、採るごとに落ち葉と石突きを落として、あまりばしゃばしゃ洗わないように済むよう処理しておくと本当に美味しい。

先日採取したものは、旨味を補うべくヤマイグチとともに炒めてリゾットにした。
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美味い!

キノコはまだまだ分からないことだらけ

これらのキノコが今後、互いに別なものとして再分類される可能性は非常に高いと思っている。
たとえば一時期、日本にはヤマドリタケ(ポルチーニ)は生息していないと思われていたが、亜高山帯のヤマドリタケモドキが実は本家ヤマドリタケであることが分かり、今ではメインターゲットの一つになっている。

身近な環境に生えるキノコですらいまいちわかっていないのに、人里離れた亜高山帯に生えるキノコの実態などわかりようがないのだ。

亜高山帯にキノコ狩りに行く人は、その一人一人が探検家であり、パイオニアであり、そして人柱でもある。
毒キノコ情報にはしっかりアンテナを張りつつ、今後も新しいキノコとの出会いを楽しみたい。

 
 
 

コメント

  1. ハイイロチョッキリ より:

    あらかた過去記事を読んでみたけどキミとこのブログ面白いね( ̄▽ ̄)良い意味で暇つぶしになったから、お礼まで〜(^◇^)身体に気を付けて。面白い記事を期待して応援してるよ(´・_・`)

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