先日、伊豆某港でウツボを釣っていた際、足元の海底に黒くて細長いものが転がっているのが目に留まりました。
サイズ、シルエットとも熊本の長ナスにそっくりですが、ナスが海底にあるわけがない。あれはむしろキュウリ🥒「海のキュウリ(sea cucumber)」ことナマコですね。
しかし、普通外洋にいるのはいわゆる「赤ナマコ」というやつで、黒ナマコは内湾に棲息するもの。何でこんなとこにいるんだ?
ちょっと不思議に思い、拾い上げて観察していると、じわじわと気づいてきました。
これ、普通のナマコじゃねぇな……?
ニセクロナマコが北上中
皆さんは、グアムや沖縄の海で「黒くてデカめのナマコ」が浜にごろごろ転がっているのを見たことがありますでしょうか。
あれは日本で食用にされる「マナマコ」とは別の種で、ニセクロナマコというものです。
暖かい海に棲む南方系の種なのですが、温暖化のせいか最近では相模湾沿岸でも見かけるようになりました。真夏にもいるからビックリしちゃうんだよな(マナマコは夏眠するのでいなくなる)。
ニセクロナマコはマナマコと違い、我が国で食用になることはありません。その理由として、体内に「ホロツリン」をはじめとしたいくつかの毒成分をもつからというのがあげられます。
ナマコやウニ、ヒトデが含まれる棘皮動物は、基本的には植物しかもたない「サポニン」という毒成分を作り出すことができます。サポニンを含むものはいずれも強い苦味や渋味があり、種類や濃度によっては重篤な健康被害をもたらすこともあります。マナマコはサポニンがあまり含まれないので食用にすることができるのです。
しかし、調べてみるとお隣中国では、このニセクロナマコを初め、マナマコ以外のいくつかのナマコを食用・薬用に用いることがかつてあったといいます。実はサポニンは強壮作用のある薬効成分であり、サポニンを含む生物は薬として用いられることも多いのです。
そもそも中国ではナマコは「海参」と書きます。参とはニンジン(人参)のことですが、ここでは西洋ニンジンではなく朝鮮人参を表します。朝鮮人参には「ジンセノシド」という有名な薬効サポニンが含まれていることで知られており、ナマコを食べると朝鮮人参と同じようにサポニンの強壮作用を得られることからこのように名付けられたのだといわれています。
ひょっとすると薬として用いるなら、サポニンの少ないマナマコよりサポニンの多いニセクロナマコのほうがよい可能性もあります。何よりサポニンは水溶性であり、茹で具合を変えることでサポニン含有量を調整することが可能。
うまくやれば美味しいナマコ料理が食べられた上に強壮作用もゲットしてちそちそがビソビソになってしまうやもしれない。期待が高まりまくりです。
ニセクロナマコって採っていいの?
しかし! ニセクロナマコを採取する前に、ひとつ気になることがあります。それは「漁業権」。
ご存知の方もいると思いますが、昨年12月に漁業法が改訂され、ナマコは「特定水産動植物」というものに指定されました。これは簡単に言うと「反社のシノギになりがちな海産物は漁業者以外獲ったらいかんようにするよ」というもので、現時点ではナマコ、アワビ、シラスウナギが指定されています。
これらの海産物は、その土地で漁業権が指定されているか否かに関係なく、一般人が採捕することができません。違反すると最大限3,000万円の罰金という極めて重い刑が課せられます。
ニセクロナマコなんて流通してないし、ヤ○ザのシノギになんかならんから採っても大丈夫だろ……と思うのですが、恐ろしいことに法文には「なまこ」としか書いていないのです。種類の規定がないの。
こりゃあわからんということで、神奈川県にメールで問い合わせてみたところ、以下のような返答が。
“
なまこについては、漁業法の規定に基づく漁業法施行規則により特定水産動植物に指定され、漁業権又は漁業許可に基づきとる場合若しくは試験研究・教育実習のため農林水産大臣等に許可を受けた場合を除いて、採捕が禁止されました。
ただし、漁業法施行規則には、なまこの種類についての規定はなく、種類によって特定水産物に該当するかどうかの区分はされておりません。
なお、特定水産動植物の定義は漁業法で「財産上の不正な利益を得る目的で採捕されるおそれが大きい水産動植物であつて当該目的による採捕が当該水産動植物の生育又は漁業の生産活動に深刻な影響をもたらすおそれが大きいものとして農林水産省令で定めるものをいう。」と定義されています。
”
かいつまんでいうと
・ナマコは特定水産動植物だよ
・ナマコの種を詳細に規定することは現時点ではやってないよ
・そもそもなんでこのルールができたかというと「これらの水産物で漁業者以外が不当に利益を得ることがないようにする」ためだよ
という感じです。
これの解釈は個人差あると思いますが、自分は3つ目の文章を「そもそも利益が得られないものであれば、特定水産動植物にはあたらない」と読み取りました。市場価値のない毒ナマコを採ったところで現状はなんの利益も被害も出ないでしょ。
というわけで、採取して食べてみることにします。
※この判断はあくまで自己責任の下行ったものです。今後ルールの改正が行われたり、あるいはその地域の警察の判断により採捕禁止となる可能性は十分にあります。自分でも試してみたいという人は、念のため地域の漁協や警察などに確認してから行うようにしてください。
ニセクロナマコを食べてみた
さて、前記の通りナマコにはおおむねサポニンが含まれているのですが、その中でも「毒ナマコ」といわれるのは、日本本土に棲息する種の中ではニセクロナマコくらいです。
なぜかというと、彼らは内臓に「ホロツリン」という毒性の強いサポニンを含んでいるから。
ホロツリンは魚の鰓などにつくと呼吸困難を引き起こすといいますが、人間の皮膚についても灼熱感や痛みなどを発生させるそうです。
ナマコの内臓というと日本三大珍味がひとつ「このわた」、できれば食べてみたいのですが呼吸困難が怖いので、こちらは廃棄することにします。
身(筋肉)のほうにもサポニンが含まれているみたいですが、ホロツリンではない様子。中国人が食べるのもたぶん筋肉だけでしょう。
前記の通りサポニンは水溶性、茹でて水さらし(つまりアク抜き)を行えば抜くことは可能なはずです。
しかし、抜きすぎてサポニンが全くなくなると、その強壮作用も期待できないのではと思われます。この辺塩梅が難しい。
ということで、まずは開いて
たっぷりのお湯で15分ほど茹でてみることにしました。
あっという間に煮汁が黒く染まります。
30分ほど水にさらします。
端っこを切って、味見。
……(`・〰・´)うん、ちょっと苦いけど、えぐみや痺れとかはなさそう。
念のためもう30分ほどさらしてから調理してみます。
味付けに使うのは鶏ガラスープ、醤油、香辛料。
ゆであがったナマコを一口サイズに切り、
スープでじっくりと煮て
片栗粉でとろみをつけます。
できた! ニセクロナマコの中華煮、完成です!
いただきまーす
……なんか、硬いな……(´・〰・`)これは一度干してから戻して煮たほうがいいやつだな。
まあそれでも噛み切れないほどではないのですが、よく噛んでいるとどうしてもえぐみが気になってきます。味見をしたときは感じなかったのですが、肉の中にはまだそれなりの量のサポニンが残ってしまっていたみたいですね。
さらにその後、一切れ目を終えて二切れ目に手を伸ばそうとした瞬間に、舌の付け根がジンとしました。
あ、これあかんやつかな……と思う間もなく痺れがブワっと舌の上に広がります。
ただ、それっきり。別に呼吸困難になるとか味がわからなくなるというほどのこともなく、徐々に痺れが抜けていきました。
まあでも、不快かそうじゃないかでいえば不快。美味しいかそうでないかでいえば美味しくない。
食材としてのポテンシャルは感じるので、一度もっと長くアク(サポニン)抜きを行い、さらにかっちかっちに干し上げてから戻して調理すればいけないこともない気がしますね。マナマコのほうが100倍美味いけどね。
味:★★☆☆☆
価格:★★★☆☆
さて、肝心の強壮作用ですが……
……正直、よくわかんない(´・ω・`)
鹿茸やマムシみたいにパチっと効いたような感覚はありませんでした。渋いの我慢して食べたのに……
まあ、量が足りなかったのかもしれないですけどね。
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