エソ、という魚に似てると言われることがある。
大きく裂けた口に、離れてギョロっとした目。
まあここまで化け物顔では無いかと思っているが、しばしば「魚顔」と言われている自分にとって、魚らしさの要素をひたすら強烈にしたようなエソの顔に、妙な親近感を覚えてしまう。
(連れに言わせると僕の顔は「マンボウとオキエソを足して2で割った」みたいな顔なのだそうだ)
醜悪な見た目に清廉な身、意地悪な小骨
エソの仲間は日本中の浅海に生息し、獰猛なフィッシュイーターとして知られている。
ルアーでもブッコミでも、海底で動くものを見つけるとなんにでも襲いかかってくるので、ヒラメ狙いの生き餌を台無しにしたり、投げ釣りで釣れたシロギスをかじってしまう。
一般的な釣り人にとってはかなり厄介な存在だ。
口裂け女のように裂けたアゴ、道化師のように模様の入った目玉、
蛇のように細長い体、外見に好かれる要素があるとは言えないかもしれない。
外見が悪くても味が良ければ許される日本文化であるが、果たしてエソはというと、きれいな薄ピンクの身は適度な弾力とゼラチン質があり、特にすり身原料としてはトップクラスの評価を持っている。
味はよいのに好かれていないのはなぜか。
それは体内に縦横無尽に走る小骨のせいだろう。
これほどまでに必要なのか?と問いただしたくなるほどの小骨が、喉を裂き、歯茎に刺さる。
すり身にされるのもこの小骨を何とかするための苦肉の策でもあるのだ。
しかし、すり身で美味しい魚はほかの食べ方では美味しくなれないのだろうか。
必ずしもそうではないようだ。
エソの場合では、各地で煮付けや焼き物として食べられており、やや柔らかいものの美味な白身として知られている。
そして、和歌山では「とんとん」という郷土料理にもされている。
今回、片瀬漁港の朝市でせっかく新鮮なマエソが手に入ったので、この料理を試してみることにした。
のっけから大ミス!でも…
「とんとん」とはシンプルにいうと魚で作るそぼろのようなもので、細かくした身を醤油と砂糖、酒で甘辛く炒りつけたものを、白飯や酢飯の上に乗せて食べるという料理だ。
包丁で身をとんとんと叩いて細かくするのでこの名前がある。
いろんな魚で作られるが、特にエソで作ったものが人気とのこと。
今回はバラコチ(イネゴチ)も使ってみることにした。
まずは頭を落として内臓を出し、3枚に下ろす。
唐墨のような卵巣がゴロリと出てきた。
今回購入したもののうち、このマエソのほかカタボシイワシ、ウルメイワシ、ヒイラギ、ヒメジ、トビウオにも卵巣が入っていた。
網に入ったものは仕方ないが、釣りで獲るならこの時期は避けたほうが良いのかもしれない。
とはいえエソの卵巣は美味しいことで知られているので、今回は有難く頂戴することにした。
皮を引くと、柔らかいながらもぷりぷりしたきれいな身が姿を現した。
ただやはり小骨の量が非常に多いので、スプーンで身をこそぎながらできる限りの骨を取り除く。
その後は包丁でよくたたき、きれいなミンチ状になるまで細かくする。
バラコチも同様に細かくする。
完了。
あとはこれを甘辛く煮て…とここでレシピを見なおしてみると「新鮮なエソをよく焼き、身をほぐしてデンブ状にする」と書いてあることに気づいた。
Oh,shit!!やっちまったぜ。
生のまま身を細かくしてしまったよ…
どうも「エソ=すり身」の構図が頭から抜けきっていなかったようだ。
確かにどれほど細かくしようとも小骨は当たる。
焼いた身なら簡単に骨を取ることができるので、そのようなレシピになったのだろう。
とはいえミンチにしたエソも、すり身ほどではないがむちむちプリプリとした身で大変美味しそうである。
これはこれで進めていくしかないだろう。
フライパンに油をひき、ミンチを細かくつぶしながら炒める。
途中で日本酒、みりん、しょうゆを入れてさらにつぶし、水分を飛ばすように煎り付けていく。
デンブというよりもそぼろご飯になってしまったが…
(@~@*)
うむ、大変美味しゅうございます。
エソの身は、加熱したときの柔らかさともちもち感のバランスがとてもいい。
バラコチはゼラチン質が多いので加熱するとよりぷりぷり感が増す。
本来のとんとんとは全く別物だとは思うが、これはこれで良いものができたと思う。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
ぼかぁエソばっかり釣れても全然困りませんけどね
ということで、すり身にしなくとも身の味の良さを実感することはできた。
マエソは比較的身近に釣れる魚なのだが、最大で70㎝程度になる大型魚で、頭が小さいため歩留まりも良い。(内臓も大きいけど)
ヒラメ・マゴチの外道で釣れ、下手な人ほどよく釣る魚として「エソ名人」などと蔑称の元になることもあるが、個人的にはエソ地獄でも困らない。
焼いたり煮たり、あるいは生でも食べられないか、まだまだ
いろいろと試したいことがある。
小骨さえなんとかできれば、きっとこちらの期待に応えてくれるはずだ。
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