「大体の海藻は茹でれば食べられる」
千葉県中央博物館の海藻の専門家、菊地則雄先生のこの言葉がきっかけとなって始まった海藻探検だが、我ながらここまでハマるとは思っていなかった。
アウトドアの端境期といえる真冬~早春の時期を埋めることができる対象物、ということで軽い気持ちでいろいろ試してみたのだが、そもそも夜のタイドプールを観るという行為が予想外に楽しすぎた。
仕事が終わってから海に向かい、寒風吹きすさぶ夜中に磯を歩き回るという行為は、他人が見れば正気を疑うほどのものかもしれないが、ライバルがいないという意味で非常にストレスフリーなアウトドアなのだ。
海藻についてわかってきたこと
さて、今年になって食べた海藻の種類数が、既にこれまでの人生で食べて来たものをはるかに超えているのだが、何となく「こうかなぁ」と思えてきたことがいくつかある。
1.緑藻はどれも風味が似ている
いうなれば青のりの味で、干してあぶって食べるという以上に美味しい食べ方はないと考えて良さそうだ。
2.ホンダワラ科は種によって味の変異が大きい
一般的にはヒジキしか食用として知られていないが、アカモクやホンダワラ、オオバモクなど美味しいものが多く、歯ごたえや味、香りに至るまで多様性に富んでいる。
今後の開拓余地も大きい、まさにフロンティアだ。
3.紅藻は煮ると溶けるか溶けないかを最初に見極める必要がある
紅藻は小型で柔らかいものが多く、やはり大体の種は美味しいのだが、さっと茹でて食べられるものと、煮溶かして固めたほうが楽しいものに二分出来る。
スギノリ目など、煮溶かせられる種が含まれている分類のものを食べる時は、最初に少量取り分けて煮倒してみると良いかもしれない。
なお、確実に溶かしたいと思っていても、テングサ類を採るのはやめましょう。
「ざざむし」と海藻探検
話は変わるが先日、ついに念願のせつな氏とのコラボレーション野食ツアーが実現した。
まあ実際は氏が釣りをしているところに乱入して、一緒に海藻探検をしただけなのだが、このサイトをやってて本当に良かったと思う瞬間であった。
いまさら説明するまでもないが、せつな氏はかつて伝説の実食サイト「ざざむし」を運営し、テキストサイト勃興期からフォント弄り全盛期において、ネット界で驚異の存在感を放っていた野食界のパイオニアである。
「野食ハンマープライス」自体、「ざざむし」の意匠の焼き直しに過ぎないと思っているし、ここに限らず「食べてみる系ブログ」のほぼすべてが影響下にあるといっても過言ではないと思う。
野食界の黒澤明、と言えるかもしれない。
氏も海藻に関して興味をお持ちだったようで、ホンダワラなどのシャキシャキ系海藻を中心に採取し、試してみるとおっしゃっていた。
潮が引いたタイドプールで、しばらく探索を続けていると、氏が不思議な雰囲気を放つ海藻を見つけた。
アズマネジモクとヨレモクモドキ
ライトに照らされた海中で、アラメやホンダワラに混じって揺れているその海藻は、ぎょっとするほどに青白く、波にまかせて幽霊のように漂っていた。
採取して手元で見てみても、明らかに青白い。というより蛍光青緑色だ。
更に面白いのは、茎がまるでDNAのように、きれいにねじれているのだ。
茎や気胞の形状から、間違いなくホンダワラ科なのはわかるのだが、ホンダワラやアカモクと比べても全く異なった種のものに思える。
そもそも褐色をしているから「褐藻類」のはずなのに、なぜこんな色をしているのか…
せつな氏と二人でげらげら笑いながら採取し、それぞれに持って帰って味を試してみることにした。
また後日、別の磯で同様に青白く光る海藻を採取したので、あわせて試してみることにした。
こちらは葉や茎が大きく丈夫で、ねじれはなく、オオバモクに一見すると似ていた。(色以外)
帰ってから図鑑で確認してみると、ねじれている方はその名もアズマネジモク、もう一つはヨレモクであるようだ。
潮間帯より下のゾーンに生えるホンダワラ科の褐藻で、大量に発生するものではないらしい。
青白系の海藻は多くないので、同定自体は難しくないと思われる。
食べられない海藻があった!!
先に試したせつな氏より「驚異的に苦渋くてエグイ」というご報告を頂戴していたので、すぐに圧力鍋を装備し、圧熱攻撃を行うことにした。
試しにさっとゆでたものをほんのちょっとかじってみたが、口腔より喉に長時間の影響が残った(うがいも効果なし)。
良い子は真似しないでください。
ヒジキやオオバモクなど、煮倒して茹でこぼして干して戻せば食べられるタイプの海藻はいくつか存在している。
アズマネジモク、ヨレモクともに手触りはオオバモクに似ており、イケるんじゃないかと思っていた。
茹でこぼすと、ヒジキ同様に真っ黒に変色した。
香りは完全にヒジキのそれだ。
Σ(*~*;;)
ダメだー!!
ちっとも解消されてないじゃん!騙しやがったな!
相当量の水で茹でこぼしたにもかかわらず、口がキュッと締まり、飲み込んでいないにもかかわらず喉がしびれたので慌てて吐き戻した。
更には茹で汁までが恐ろしい渋さに…!!
味:★無し
価格:★マイナス
タマハハキモクのように、物理的に(固くて)食べられないというのとは違った、明らかにポイズニックな味わいに、なぜか逆に感動してしまった。
よかった、ちゃんと海藻にも、食べられないものがあるんだ。
あれもこれも食えるというのでは、野食対象としては有難いがハンティングの魅力は半減してしまう。
キノコ狩りも、毒キノコがあるから面白いのだ。
今後は青白系海藻に注意しながら、引き続き食べ続けてレポートしていきたいと思っています。
コメント
小さなお子さんをお持ちで、親権をとりつつ離婚したい旦那様にオススメです。
バレないよう煮汁を鍋に少量仕込めば、お子様はトラウマ並にママが嫌いになるでしょう。
ってか、黒澤明に失礼
「ざざむし」を髣髴とさせるスパイシーなコメントありがとうございます!w
いやいや、その影響力はハンパないですから!
しかし、なんでこいつ等だけこんなにも苦いんでしょうね。触り心地も固いし、あまり食害されないように思えますが…
もしかして、たまに起こるアワビ肝の中毒って、こいつ等を食べた個体の肝を食べると起こるのでは…!?