鎌倉の中央食品市場には鮮魚はほとんど入らないが、ユニークな乾物や食品を取り扱う店があり、おもしろい買い物ができることがある。
前日市場でアーティチョークを購入した後、何気なくその店ものぞき込んでみると、気になるパックを見つけた。
えっイトヨって食べてもいいの?
佃煮と思われる黒い小魚が入ったパックには「北海道 イトヨ」とサインペンで力強く書かれていた。
イトヨとはトゲウオ目という淡水魚のグループの一種で、背鰭と腹鰭の数条がトゲ状になっていることが特徴の小魚である。
婚姻色の実験で理科の便覧に掲載されることが多いため、写真を見たことがある人も多いかもしれない。
トゲウオの仲間は、サケのように海と川を両岸回遊するものや海水、淡水のみで生きるものなどバラエティーに飛んでいる。
しかし日本に生息するものは少なく、北日本のイトヨ、中部のごく限られた地域に生息するハリヨ、埼玉県熊谷市のみで生息が確認できるムサシトミヨなど8種類のみが知られている。
水温の低い水源地でしか生きられないものが多く、絶滅危惧種に指定されているものが少なくない。
調べてみると北海道のイトヨに関しては絶滅危惧種にはなっていないが、それでもそれを調理して、あまつさえ惣菜として流通なんてして構わないのだろうかと驚いた。
しかしさらに調べてみると、北海道以外に新潟などの北日本海沿岸では釣りの対象魚として人気があり、専用の竿や仕掛けもある。
陸封性のものは希少で天然記念物に指定されているが、降海性のものはまだそこまで希少ではないようで、漁獲があるようだ。
釣った魚は唐揚げや天ぷら、マリネなどにして食べられているほか、走りの時期は市場に卸すとキロ10,000円ほどの値が付くために、小遣い稼ぎを行う人もいるようだ。
するとこの1パック350円の佃煮はめちゃくちゃお買い得に感じる。
取りあえず買って見ることにした。
独特なのはイトヨか、味付けか
帰宅し、さっそく食べてみることに。
醤油で黒く濁った魚体からは、イトヨの特徴的な銀赤の体色は判らないが、トゲウオの特徴である横向きに走る条線が見える。
またトゲウオの名の由来となった鋭い鰭のトゲもしっかり残っている。
見た目にはこのトゲ、口に刺さると痛そうだが…
いただきます…
(・~・)…
…
ちょっとアルコール分が強いな…
調理時に料理酒だかみりんだかを使いすぎたのだろう、口の中に強い香りが残り、魚の風味が感じづらくなってしまっている。
しかし味自体はなかなか悪くない。
件のトゲや中骨は全く堅くなく、口の中で柔らかくほどける。
さらには脂がのっているのか、味に強いコクがあり力強さがある。
ご飯に合うのはもちろん、日本酒なら純米酒、焼酎などのハードリカーにも合わせられそうだ。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
一度シンプルな調理で食べてみたいが…
というわけで「佃煮」という調理法ではなかなか美味しく食べられるのだということが分かったが、生の味は全く推測することができなかった。
あの味のコクから考えるとマズイということはないように思うが…
新潟、秋田など、伝統的にイトヨを食べてきた地域に行けば、新鮮なイトヨをシンプルな料理で食べることができるようだが、それでも本州日本海側の個体群は2007年にレッドリストに登録されている。
ひょっとすると、いまこれらの地方で食べられているイトヨのいくらかは、北海道やサハリンなどで採れたものなのかもしれない。
かつては、遡上してきたイトヨが田んぼの用水路を埋め尽くすほどだったのだという。
いつかまたそんな日が戻ってきたら、その時は新潟に遠征してイトヨを釣って食べてみたい。
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