猛毒かつ美味!?「菌界の河豚」シャグマアミガサタケを採って食べた

もしあなたにフィンランド人(スウェーデン人でも可)の友人がいたとして、その彼が
「ワタシが釣ったこのフグという魚は大変な美味らしい、食べてみたいがどう料理すればいいのか?」
と言って来たらどうするだろうか。

おそらく、10人中10人が止めるだろう。
しかしもしその時に「毒があるから、食べてはいけないんだ」と説明しても、また「免許がないと調理ができないんだ」と伝えても、彼は納得してはくれないかもしれない。

なぜなら彼の国には、致死性の猛毒を持ちながら、一般的に食用とされ、缶詰まで売られている食材があるからだ。

シャグマアミガサタケ

ゴゴゴゴゴゴg

 

シャグマアミガサタケという(ある意味)奇跡のキノコ

シャグマアミガサタケは、早春から初夏にかけ、モミなどの針葉樹の林床に発生する春のキノコの一つだ。

このサイトにたびたび登場するアミガサタケとは近縁と思われることも多いが、アミガサタケがアミガサタケ科なのに対し、シャグマアミガサタケはフクロシトネタケ科という全く別の科に属しており、あまり近い関係とは言えない。

このキノコ、日本ではこれまで、一般的にほとんど知られておらず、また
・春先に発生すること
・高山地帯に多いこと
そして
見た目が脳みそなこと

シャグマ脳みそ

「…梅干し?」と言った友人もいます


などの理由により、キノコ狩りの対象とされることはなかった。

脳みそなせいかときに「森の哲学者」と呼ばれることもあるが、詳しいことは不明である。ぜひ命名者に詳しい事情を聞いてみたいものだ。

さらに、今後もその対象になり得ない事情がある。
その毒性の強さだ。

死の天使ジロミトりん

シャグマアミガサタケにはジロミトリンという毒成分が含まれており、このままでも吐き気・嘔吐・激しい下痢と腹痛、痙攣などを起こすのだが、沸騰水中で加水分解されることによりモノメチルヒドラジンという揮発性の猛毒と化し、重篤な内臓出血と脳浮腫、意識障害を引き起こしヒトを死に至らしめる。
(実はジロミトりん♪は普通のアミガサタケにも微量含まれています。生に近い料理で食べるのはやめyo!)

モノメチルヒドラジンはロケットエンジンの燃料として知られており、この脳みそキノコがなぜそんなものを生成するのかについてはいまいちわかっていない。

だが喰う

とここまで脅せば、採って食べようなんて人間はきっと現れないと思うので安心して話を進めるが、実はこのキノコ食べられるのである。

学名Gyromitra esculentaのエスクレンタとはラテン語で「食用の」という意味で、ヨーロッパでは昔から食用にされてきた。

先述の通りモノメチルヒドラジンは揮発するので、換気のいい場所で十分に茹でこぼせば毒抜きができ、料理に用いることができるのだ。
シャグマアミガサタケを珍重し、市場でも販売している国の一つフィンランドでは下記の手順で毒抜きを行うという。

キノコを大量の水(キノコ1 に対し水3 の割合)で茹でる。少なくとも5分以上煮沸してから茹で汁を捨て、大量の水でじゅうぶんに煮汁を洗い落としてから、もう一度5分以上茹でる。(wikipedia 「シャグマアミガサタケ」より引用)

ここで一つ気になるのは、数度にわたり茹でこぼすことで、毒成分のみならず旨味も完全に消え去ってしまうのではないか、ということである。
わざわざここまでして食べるというのだから、それだけの魅力があるのは間違いないのだろうが、それにしても俄かには信じがたいところだ。

ぜひ、自分でも試してみなくてはならない。

ねんがんの シャグマアミガサタケ を てにいれたぞ

実は昨年の4月、Hさんら友人とともに網代港でウツボを仕留めた後、シャグマアミガサタケを探しに富士山まで足を延ばしてみた。
しかし十分な時間がなく、また富士山のモミ林は1合目から5合目まで広い範囲に分布しており、残念ながら出会うことはできなかった。

今回は平日に休みを取り、朝から富士山に向かって車を走らせ、1合目からしらみつぶしに探していく作戦をとった。

しかし、秋のキノコハイシーズンと異なり、殆どのキノコが顔を出していないこの時期に、居るかもわからない脳みそを探して歩き続けるのはかなりつらいものがある。

探索を始めてから4時間、半分あきらめモードに入りながら、3合目のモミの純林の、林道わきをゆっくりと歩いていると

シャグマアミガサタケ


あった!!

この周辺の半径200mほどの空間にだけ、ポツリポツリとシャグマアミガサタケが発生していてくれたのだ。
とあるHPによると、彼らは4月に麓のモミ林に発生した後、徐々に発生高度を上げていき、6月には5合目に到達してその年の発生は終わるのだという。

シャグマアミガサタケ

今回はこういう場所に出ていました


今年の気候と発生高度を覚えておけば、来年以降の探索に大きなアドバンテージになるに違いない。

また、発生していたあたりの高度ではちょうどフジザクラが見ごろであった。
フジザクラ
これも参考にできるだろうか。。

シャグマアミガサタケを調理する

こうして無事自宅まで搬送されてきた脳みそ軍団、もとい哲学者…いや脳みそ。

シャグマアミガサタケ

あらためてヤベえ見た目してる


シャグマアミガサタケ
シャグマアミガサタケ

乾くと色が濃くなる


さっそく毒抜きに進みたいのだが、思い出されるのは
フィンランドでも、調理中に気化したモノメチルヒドラジンを吸って中毒に陥る事故がたびたび発生している
という事実!

我が家の台所の換気扇は非常にしょぼい作りのうえ、排気口はマンションの廊下に面しており、知らずに他の住民がその下を通ればとんでもないことになりかねない。

というわけでカセットコンロを持ち出し、屋上…は立ち入り禁止なので、そこに続く階段の踊り場に置いて煮沸する作戦に出た。
シャグマアミガサタケ,煮沸,屋外
石突きを落とそうとすると脆く崩れてしまうので、一度茹でてから掃除をすることにした。
シャグマアミガサタケ,煮沸
おりしも近づく台風のせいか強い風が吹き、コンロの貧弱な火は着いては消えを繰り返す。
そのたびに息を止めて着火しに行くのだが、恐ろしくて目も開けていられない。
未知なるキノコに対して、人はこれほどまでに無力なのか…
シャグマアミガサタケ,煮沸
ちなみに恐ろしくてしっかり嗅ぐことはできなかったが、時々風に乗ってやってくる蒸気の香りは決して刺激的なものではなく、アミガサタケをより動物的にしたような濃厚で野性的な香りで、正直なところ食欲を刺激される類のものであった。

水から茹で、10分ほど沸騰させたものがこちら。

シャグマアミガサタケ,毒抜き

これあかんやつや…


茹で汁は魔女の毒のごとく赤紫に濁り、沸き立つさまはさながら地獄の窯のようだ。

茹で汁を排水溝にそっと流し、急いで流水に放って茹で汁を十分洗い流す。
シャグマアミガサタケ,毒抜き後
見た目は相変わらずアレだが、嵩は半分ほどになり、また予想通り弾力が出て扱いやすくなった。
このまま3時間ほど流水にさらす

石突きをとり、水気を切ったものがこれ。
シャグマアミガサタケ,毒抜き後
再度、水から茹で、十二分にぐらぐらさせる。
ここで断面を見ると、アミガサタケと異なり芯まで肉が詰まっている。
シャグマアミガサタケ,断面,中実
このために同数のアミガサタケと比べてもボリュームがあり、お得な感じがする。

茹であげて水に晒し、さらに念を入れてもう一度10分茹でて水を切ったものがこれ。
シャグマアミガサタケ,調理前
正直、2度目の煮沸以降は見た目や質量に変化はなく、茹で汁もそれほどには濁らなくなった。
結局のところ、何回茹でればいいのかなんて誰にもわからないのだ。
今後もずっとそうなのだろう。

シャグマアミガサタケを食べてみた

毒抜きは十分に完了していると思われるが、念のため最初は少量にとどめたい。
小ぶりの個体2つを取り出し、サラダ油でよく炒める。
味付けは塩コショウのみ。
シャグマアミガサタケ,ソテー
散々加熱しているので火の通り具合がよくわからないが、覚悟を決めて食べてみることに。


…(`・~・´;)


うめぇ。

何だこれ、かなり美味しいぞ!

懸念の「うま味の流出」が起こったのかそうでないかは全く定かではないが、一つ言えるのはこの時点でも非常に大量のうま味が含まれているということ。
うま味の強いアミガサタケと比べても、数倍は濃い

歯応えはモツとキクラゲの中間のようで、しっかりした歯ごたえがあり歯切れがよく、中実の柄は弾力もしっかりとしていて口の中ではじける。

香りは茹でているときの強烈な匂いを薄めてちょうどよくした感じで、これもまたアミガサタケより数倍強い。

面白いのは味、香りとも動物の肉の風味を感じさせるのだ。
決して使われることはないだろうが、精進料理に向いているのではないかと思う。

フィンランドでは高級食材として扱われているというのもさもありなん。

味:★★★★☆
価格:★★★★★ フグが高価なのは手間のせい、ならシャグマも同様か

その日は2切れにとどめ、丸1日待ったが体調に異常は全くなく、翌日は大きな個体をいくつか食べたがやはり問題はなかった。
毒抜きは全く問題なかったことが証明された。

というより実際はやり過ぎだったのではないかとも思う。
でも命を賭してまで食べるべきキノコなど存在しない。
安全第一で試食し、なおかつ十二分に美味しいのだからこれ以上何を試す必要があろうか。

敢えておすすめはしないけど、フィンランドの食文化に乾杯

日本には素晴らしい食用キノコがたくさんあり、敢えてシャグマアミガサタケを、毒抜きまでして食べることに意義を見出せる人は少ないだろう。
先だってtwitterに試食のようすをアップしたが、賛否両論渦巻く反応が起こった。

それでも、この試食の結果、フィンランド人をはじめ、シャグマアミガサタケを食べる人たちへの尊敬の念が僕の中で大きなものになっている。

美味しいものを見つけ出そうという執念、そしてそれに費やされたであろうエネルギーと犠牲には、いつの時代にも、どこの国でも、心からの拍手を送りたい。
そして、それを愛する人がここにもいるのだということが、彼らに伝わるととてもうれしい。

 
 
 

コメント

  1. 廣瀬 修 より:

    シャグマアミガサタケ食したのですね。TVの番組で本場フィンランドの市場の小母さん曰く「水を代えて三回茹でれば大丈夫!」と何回も説明してました。
    日本レッドデータで栃木県,兵庫県は「要注目種」。三重県は「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されてます。美味いから取り過ぎてではなく開発等で生息環境が悪くなったからだと思います。

    石川県にはフグの卵巣の糠漬けなる物がありますよ。製造には免許が必要です。
    味は塩辛くて閉口しました。

    • wacky より:

      やはり、3回か…まあ何度茹でても旨味はなくならないような気がしたので、好きなだけ茹でこぼせばいいんじゃないかと思います。怖い人はもっとやりたいでしょうしね。

      今回出会えるまでにいろいろなところに行きましたが、やはり少し寒冷でモミやウラジロモミがはえるような場所が適しているようですね。
      そうすると西日本は少なくなるかもしれません。

      フグの卵巣は毒の前に塩分過多で死ねるような気がしてなりません(笑)
      でもお茶漬けにすると美味しいんだよなぁ…

  2. Yoshi より:

    日本のシャグマとフィンランドのそれとが厳密に同じかどうかが気になりますね。毒の強さや種類が違うとちょっと怖い。DNA解析でこれからは研究が進むでしょうね。僕的には大量に集めてロケット作ってみたい(爆)

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