ラブリーな魚を捌いたら中身もラブリーだった

秋晴れの空の下、伊豆某所で素潜りをしていた。

はるか南方から押し寄せるうねりに翻弄されながら海中を捜索していると、必死で波に抗いながら(というか完全に流されながら)海底を漂うネズミを捕捉した。

ヤツだ!!

銛でつつかれたネズミは、海底へと逃れながら、やおらその体を膨張させる。

再度狙いを定めて射抜くと、真ん丸に膨らんだそれは従順に浮き上がってきた。

 

沖縄ではメジャーな食材・ハリセンボンは美味しい

ハリセンボンは猛毒で知られるフグにごく近縁でありながら、全部位が無毒で沖縄などでは汁物にして賞味されている。

前回捕まえたハリセンボンとハコフグ

あばさー汁という名で知られるその味噌汁は、僕がこれまで食べてきた中で、最も滋養に富んだ食べ物だといえるだろう。

2年ほど前、素潜りで捕まえたハリセンボンをやはりあばさー汁にしたのであるが、その時は25㎝ほどの魚体の中に20㎝ほどの卵巣と肝臓がみっちりと詰まっていた。
ハリセンボンは無毒だ、と本で読んだことがあったので、躊躇なくすべてを鍋にぶち込み味噌汁にした。

それを飲んだ夜、僕は全く何の前触れもなく両鼻から鮮血を噴射した
最初はこれをフグ毒だと錯覚し(ヒレ酒で体が温まるのは毒のせいだと思っていた)やはり肝を食べてはいけなかったのだとひどく後悔したのだ。

その後、ネットで調べてやはり無毒であるということはわかったが、一晩中身体がかっかと熱く、11月なのに冷房をかけてやっとのことで眠った。

注1:卵巣に関しては、沖縄の漁師の間では有毒だといわれて敬遠されているそうだ。
実際のところ毒性は確認されていないが相手はフグ目なので自重したほうがよいかもしれない。
やっぱりあの鼻血はテトロドトキシンのせいだったのかなぁ…?
なお、肝は普通に食べられているそうです。

ただ、強壮効果もさることながら、味はものすごくよかった。
これまで飲んだ味噌汁の中でも最高のものだったと断言できる。
分厚い皮から溶け出すコラーゲン、ふぐちりにも劣らない濃厚なだし汁、そして上品で臭みのないのに濃厚な肝…
フグの肝で中毒死したという八代目坂東三津五郎の気持ちもよくわかる
こんなにおいしいのにTTXが含まれてないなんて!!

その後、あの感動をもう一度、と思いながら釣りや素潜りにいそしんだのだが、ついぞ捕らえることができないままであった。もちろん、築地でも出会うことはできなかった。

ハリセンボンを捕獲して捌く

今回、同所で素潜りをすることが決まると第一目標はおのずとハリセンボンに決定した。

南方系の魚らしく、伊豆半島ではあまり多くないようだ。
模様が石に似ているため、海面からだと保護色となり探しにくくなることもあって、半日探しても見つからないこともある。
さいわい今回はすぐに見つけることができた。

ちなみにフグの仲間には空気で膨らむものと海水で膨らむものがあり、投げ釣りの外道でおなじみのクサフグなどは前者のため苦労せずに回収することができるが、ハリセンボンは海水で膨らむためとても重くなり、浮力も効かなくなるので難儀する。
トレードマークのとげも伊達ではなく、海中で膨らまれると手の出しようがない。陸に上がってから、ハサミで慎重に外していくこととなる。

厳重に氷締めされて、ハリセンボン君が我が家の台所に登場したのは翌日曜日のことだった。

さて、いうまでもなくハリセンボンはとってもラブリーである。
捕食対象に対しての貪欲さで知られる僕も、この子を捌くのは別の意味で気後れする。

ハリセンボン調理前

そにっく・ざ・へっじほっぐ。

まず目がかわいい。でっかくてくりくりしている。
前髪のように逆立ったとげもいい。まるでイワトビペンギンのようだ。

ハリセンボンお腹

少しぽっちゃりな子が好きです

ぽよぽよした真っ白なお腹もかわいい。短いひれを必死にパタパタする姿も鼻血が出そうなほどかわいい。

ハリセンボン背中

おしゃれなコート

背中の控えめな模様もネズミそっくりでかわいい。というか全体的にネズミそっくりだと思う。

膨らんだ姿もいいが、そうでない姿こそいとおかしけれ。なんてかわいい魚なのでしょう!!

だが喰う。

ハリセンボンの○○○は超かわいい

ハリセンボンの真の魅力はその味わい。
さっそく捌いてあばさー汁に仕立てようと思うのだが、なんと驚くことにこの魚のラブリーさは外見だけではなかったのである。

注:この先内臓画像が続きます。キワドイ画像が苦手な方はブラウザの戻るボタンでお戻りください。なお、先にネタバラシをしておくと、ラブリーなのは臓物です。

ハリセンボン憩室

オペ開始

メタボ気味なお腹の皮を切り、とげに注意しながら開いていくと、海水が詰まった袋が出てきた。お腹の大部分はこの袋と海水だ。
プロはお腹に水を入れ、吊り下げながら捌いていく手法をとるらしいが(アンコウと一緒やね)、今回は銛で穴をあけちゃっているので断念した。

腸の内容物をぶちまけ無いよう丁寧に取り出し、さらに奥を探ると

ハリセンボン肝

究極の滋味

でっかい肝が出てきた。

フグの仲間はどれも肝が大きい。
もちろん肝に猛毒を持つものも多いのだが、無毒のものは一転してそれがごちそうになる。
鼻血パワーの源である。

そしてもう一つの源である卵巣は…なかった。
残念。オスだったのかもしれない。
注2:繰り返しになりますがハリセンボンの卵巣は有毒かもしれないので気を付けてください。食べるなら自己責任というやつです。

気を取り直してさらに開いていくと、とてもポッコリとしたものが出てきた。

ハリセンボン浮き袋

なんだこれ?前捌いたときもこんなのあったっけか?

見たところ浮き袋のようなのだが、すると海水が詰まったところは浮き袋ではないのだろうか。←調べてみると憩室というところらしい

とりあえず、取り出してみるか…

ハリセンボン浮き袋

あっ

ノンタンだー!!

お腹の中からノンタンが出てきた!!

なんと、ハリセンボンは浮き袋までラブリーだったのだ。

確かにほかの魚でも、浮き袋が2つあったり、二又になっているものはあったが、このような形のものはなかった。

ハリセンボン浮き袋

耳がかわいい

この形状、この色合い、どう見てもノンタンである。もしくは某デパートのCMキャラクターにも似ている。

ハリセンボン浮き袋

ころころしている

大きさは手のひらですっぽりと包めるほどで、すべすべとしており、2本の耳がかわいらしく盛り上がっている。

ハリセンボン浮き袋

上から撮影

耳のほうからも撮影してみたり。

さて、予想外の可愛さに遊び倒してしまったが、浮き袋は食材としても一級品なので、これもあばさーに入れてしまうことにした。気を取り直して調理を進めていくことにしたい。

とげが手に刺さって痛い(予想以上に鋭いのだ)が、耐えながら皮をはいでいく。
目の周りと口の周りはハサミで切り取り、外すとこの通り。

ハリセンボンむき身

身欠きハリセンボン

別に皮に肉が残ってしまったのではない。ぷくぷくでとげとげの皮の下は、びっくりするほど貧相なのだ。
近縁種で70cmほどになるイシガキフグはそれでもある程度肉が取れ、刺身にもできるというが、ハリセンボンだとそれは難しい。

大きな頭のほうにもいい感じの肉があるので、全部いっしょくたにして煮込んでしまうのがいいと思う。

あばさー汁

フグ目ごった煮

全部鍋に入れて水から煮ていく。一緒にとれたカワハギの頭も入れちゃおう。

徐々にあくが出るので、丁寧にとるようにしたい。

ラーメン大好き小池さんの唇みたい

火を通すと浮き袋もこの通り。しぼんでしまった。

ハリセンボン皮

分厚くて、ぷるぷるで、とげとげ

もちろん、皮も入れる。
とげとげで食べられなさそうだが、皮自体は非常に強烈なコラーゲンで、煮れば煮るほど汁に溶け出し味がよくなるのだ。ちなみにとげは骨そのものなので食べられない。

火が通ったら味噌を溶いて、完成!!

自家製あばさー汁

青葉を散らしたほうがよかったか?

僕の料理はいつも見た目はあれですが、素材が新鮮なので味はいいです

このあばさー汁も、臭みやえぐみはちっともなくて、肝からしみ出す上品な脂がとてもおいしい。

鼻血は出ないが身体が温まる。

まあ、手は穴だらけになるんだけど…

ハリセンボンは可愛くて美味しい超有用フィッシュ

いやー、これまで魚やらタコやらアメフラシやらヒザラガイやら捌いてきて、かわいいと思ったものはいくつもあったけど、まさか内臓までかわいいものがあるとは思わなんだ。
お腹から切り開いていてあの形に埋まってるってことは、ハリセンボン君が海中で泳いでいるときは、ノンタンもお腹の中で立ち上がってる(耳が上を向いている)ことになるわけだからね…
マンボウとかクサビフグとかもいるし、つくづくフグ目って不思議だなぁと思う。

この気持ち、アクアリウムや水族館で対象物を愛でているだけの人には決してわかるまい。

…捌いてる時点で愛でるも何もないですかそうですか。

ちなみにこれまでの可愛い度ランク一位はハコフグでした。
こいつもおいしいけど、フグ調理師免許がいるので掲載は見送り。
検索したらいっぱい食べてるサイト出てくるし、いまさらね…

 
 
 

コメント

  1. capelito より:

    冒頭から鮮血を噴射していて心配になりましたが、ハリセンボンは確かにラブリーですねー。ノンタンのくだりも面白かったです!でも、アレをこどもに「ノンタンだよー」と見せたら泣くでしょうね…。

    (ブログをみていただいてありがとうございました!)

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