陸棲吸血ヒルと奇妙な地中の高級キノコ:野外で採集!美味しい食材

日本は南北に長く、各地に独特の食文化が残っていることはよく知られている。
そのなかでも、特にキノコ料理にはかなりの地域格差があるようで面白い。

有名どころだと、チチタケというキノコがある。
栃木県出身の人なら「ちたけうどん・そば」というものを一度は食べたことがあるのではないだろうか。

初夏に出る、白い乳液を吹き出す小型のキノコで、他の地域ではさほど珍重されないのだが、栃木県に於いては熱狂的なファンがいる。
福島や群馬など隣県に繰り出し、地元キノコ狩り客との摩擦すらおこっているというのだから大したものだ。

乳が出るのでチチタケ

どこの地域にもそれなりに生えているし、それこそ東京郊外にだってよく出ている。味のほうはというと、煮干しにも似たいいだしは出るが、歯ごたえは悪くぼそぼそしている。シメジのような万能タイプではないのだが、それが逆によいのかもしれない。

 

ごくごくローカルな食用キノコ・マメダンゴ

さて、今回筆者が探索に出かけたのは、そのチチタケに似た境遇ともいえるとあるキノコ。
マメダンゴ」と呼ばれるそのキノコは、国内では福島県と九州地方のごく一部でのみ食用として利用されている 珍しいもので、殊に福島では松茸をもしのぐ人気があるという。
ネット上の情報によると、阿武隈地方の直売所で、30gほどの袋入りで500円で売られていたという。
単純計算だとキロ16500円となり、筆者がこれまでに食べた物の中で2番目に高い計算になる(一番は「15kg超えの天然クエを食べる会」というイベントで食べた五島産天然クエ20,000円/kg)

それ以外にも「松茸より高価!!」という表現をいくつも見るが、国産の松茸は100gで2500円とかするのでさすがにそこまではないだろう。

さて、そんなマメダンゴであるが、これをキノコ図鑑で検索してみてもおそらく見つからない。
正しい和名はツチグリ。「土栗」である。その他「土柿」とも呼ばれる。
名称は成長した姿に由来するというが…

土…栗…?

栗っぽくはないと思う。柿のヘタには似ているかも…

このキノコは初めは球体だが、湿度が高まると星状に裂けて開き、再び乾燥すると皮が閉じて中心部を押し込み、中心から胞子を吹き出す。
自らの力で胞子を撒くという、普通のキノコとは全く違う、面白い進化を遂げた種なのだ。

このツチグリ、実は比較的どこにでも生えている。
松の木があるところなら人家の庭にも生えるし、探せば都心部の公園でも採取できる。
画像の通りユニークな姿をしているので一目でわかるし、似た毒キノコも現時点では発見されていない。

たくさんいるとエイリアンのようだ

ではなぜこんなに珍重されているのか?そしてなぜ他の地域では利用されないのか?

その謎を晴らすべく、自分でも採集してみることにした。

マメダンゴ/ツチグリの奇妙な生態

前回のカンゾウタケもそうだったが、マメダンゴことツチグリも初夏の貴重な食用キノコだ。
ツチグリは毎年同じところに出るキノコで、胞子を出した後も残骸が残っていることが多い。
ただ問題は、マメダンゴ状態では地中に埋まっているということだ。
これを見つけるには昨年のキノコの残骸を探し、根気よく穿り返していくしかない。

そしてさらに厄介なことに、ツチグリというキノコはしばしば生える場所を移動する
これは生える場所が変わるということではなく、生えた後にそのキノコ自体が場所を移動するということだ。
お前はスーパーキノコか。
すると僕はマリオか。

ツチグリの表皮は2層構造になっており、乾燥すると外側の皮が縮み内側の皮が伸びることで表皮が星状に裂けて開き、胞子を放出する。
湿度が上がると逆の現象が起き、表皮が閉じる。
そして丸くなったツチグリは風の力や引力などに従って場所を移動し、再び乾燥を待つのだといわれている。

これが丸まると

こうなる。息を吹きかけると胞子は出たが、まだ根がしっかりしているのか移動はしなかった。残念

ツチグリの残骸を見つけてそこを掘り返しても、最初に生えたところでないと翌年の幼菌(マメダンゴ)は生えてこない。
これがマメダンゴ狩りを必要以上に難しくしている要因の一つのようだ。
しかし生え方といい扱われ方といい、もしかしてトリュフと同じような高級珍味なのではないだろうか?(ちなみにトリュフの近縁種「イボセイヨウショウロ」が神奈川県に産することが分かっている。いつかゲットしたい。)

とまれ、先ずは残骸を探さなくてはならない。
土がむき出しになった法面や、崖沿いの道を歩いて探すと見つかりやすいのだが…いざ探すとなると、身近なところがなかなか思いだせない。

仕方がないので、困ったときの里山頼み、青吉くんにまたがりホームグラウンドの厚木市某公園へと向かう。

這い寄る!!ヤマビル

あいにくの雨模様だったが、雨の止み間を縫ってペダルを回し、2時間かけて厚木に到着。
靴を履き替え遊歩道を進む。
おあつらえ向きの崖や沢沿いの道など、キノコが生えそうな環境にわくわくしながら進んでいったのだが…

シカよけの柵。もともとは畑の食害を防ぐためのもの

嫌な予感。シカよけの柵だが、こいつがあるということは…

ヒルよけの酢。あんまし効果ない

やっぱり。
間違いない、ここには奴らがいる。
試しに立ち止まり。大きく深呼吸をしてみると…

キター!!

出た。
僕の天敵ヤマビルが今宵もお出ましなすった。
シカの蹄に入り込んで生育範囲を広げており、今や厚木における最大のバイオハザードともいえるほどに恐れられている。
湿度が高いほど元気になり、雨の日になると木の上で待ち伏せて通りがかる人の首筋に張り付き、吸血するとも言われている。

呼気の二酸化炭素に反応する

しばらく立ち止まっていると、草むらや木の葉の裏からつぎつぎと現れる。
いつ見ても想像以上に速い。
今日は雨なのでなおさらだ。
分速1m位は出ているだろうか。

呼気の二酸化炭素を感知して襲い掛かってくるようだ。
四方八方から にじり寄ってくる姿は恐怖を覚える。

速過ぎて画像がボケる

今でこそ冷静に眺められるようになったが、初めて遭遇したときはキノコ籠ぶん投げて30mくらいダッシュで逃げた。
ともかくグロい。グロすぎる。
そして傷口の血が止まらない。3日ぐらい出続ける。

それが今では靴についたのを眺めたりできるようになったのだから、慣れというのは恐ろしい。

ぴとっ

よっこらせっと

対処法はいろいろあるが、いちばん簡単なのは咬みつかせないことだ。
厚手の靴下にストッキングかタイツ、レギンスを組み合わせて、肌の露出を出来る限り減らす。
上から降ってくるものに注意するのは難しいが、首元は襟やタオルでしっかりとガードしておけばいいだろう。

もちろん油断するとよじ登ってくるが、見つけ次第指ではじき飛ばしてしまえば問題はない。
もちろん気持ち悪いが、慣れれば蚊と同じだ。
ちなみに打撃は基本効かないので注意。
ハート様みたいにぶよぶよしてはね返してしまう。

ナイフで切断すると死ぬが、それよりは塩をかけた方が手軽に処分できる。

マメダンゴ確保

さて、ヤマビルにひるまずに探し続けていると、ようやく目当てのツチグリを発見した。
あとはひたすら付近を掘り返していくのだが…

あった!と思ったらドングリ。

お約束

こんどこそ!と思ったがこれはコガネムシの幼虫。

紛らわしいよ。かわいいけど。

夕暮れが近づき、タイムリミットが迫る。
ただでさえ雨天の今日、18時ともなると森の中は真っ暗だ。

もう今日はあきらめるか…と思いながら落ち葉だまりを掘り返すと…

あったー!!

ようやく発見!!
スコップが触れて割れてしまったが、まぎれもなくマメダンゴだ。
ホントにトリュフっぽい!!大きさは全然違うけど…

別のも発見。ピンボケ…

直径は2cmほど、外皮は薄汚れたこげ茶色だが中は純白だ。
これが中まで茶色くなっていると苦くて食べられないという。
この周辺から、1cmほどの超小型を含め5個のマメダンゴを発掘することができた。

興奮しながら探し続けたのだが、ツチグリはいくつも見つけることができたにもかかわらず、マメダンゴはこの1か所だけに終わってしまった。
やはり幻の高級キノコ、そう簡単に見つかってしまうのでは福島県の人に怒られてしまう。
延々と地面を穿り返していくうちにトリュフを探す豚の気分になったが、土中のマメダンゴはトリュフと異なり、これといった香気を発しないようなので鼻で探すことは難しい。
犬を訓練したら可能になるかな?もしかしたら福島県にいないかしら。

マメダンゴは香りが美味しい

きれいに洗ったマメダンゴ。確かに豆の団子って感じ。

ということで無事ゲットできたマメダンゴ。どのように食べるべきなのか。
料理方法を検索すると、いくつも出てくる。
福島県では味噌汁やうどんに入れることが多いようだ。
炊き込みご飯なんかも美味しそうだ。
今回は残念ながら材料が少なすぎるので、バターソテーで食べてみることにした。

熱く熱したフライパンにバターをひとかけら落とし、マメダンゴを入れてさっと炒める。
この大きさなら1分ほどでいいだろうか。あまり加熱しすぎて風味が飛んでも面白くない。

完成。

あまり食欲をそそる色ではない

小さい…けど味は!?

不思議な食感だ。
外皮はポリっとしていて、中身はむにゅっとしている。
ギャップが面白い。
例えるなら外皮はキクラゲのようで、中身はハンペンのようだ。

特筆すべきはその香り。
トリュフの醤油系の香りと異なり、さわやかなマイタケのような香りが感じられる。
調理前は無臭だったのだが、こんな才能を隠し持っていたとは驚きだ。

トリュフは和風料理に合わせられない(薄味だと土臭い)が、マメダンゴはこの香りを活かすべく、薄味の出しで汁物に仕立てたり、炊き込みにするのがやはりよさそうだ。
マメダンゴ炊き込みごはんの炊飯器をあける瞬間に、この香りがぱぁっと広がる様子を想像し、よだれが止まらなくなる。

ただ、炊き込みにするにはやはり量が全く足りない。
後日もう一度同じところに採集に行ったのだが、ヤマビルを100匹ばかり滅しただけでマメダンゴの収穫は無かった。
やはり犬を訓練するしか…

ということでまとめ
・マメダンゴは香りがいい。
・宝探しは根気よく掘り返すべし。
・ヤマビルが来てもあせらない。
・誰かトリュフ犬貸してください。豚でも可。

評価

マメダンゴ:★★★★★★★☆☆☆   1000円/10個
商売としてとるんだったらこれくらい必要。一か所に集まっているので、鉱脈を見つけたらもっと安くて済むかも…

備考:★の数は味、採りやすさ、コストパフォーマンスで決めています。
価格は種類、味わいが近いもの、スーパーマーケットにおける価格から、「これくらいならお店に売られてても買っていいぜ」という金額を独断で決定しています。その際参考にしたものを後ろに記載しています。

ちょっとだけ希少なシロキクラゲも採れた。これについては後日、他のいくつかのキノコと合わせ「黒蜜と黄粉で食べるキノコ」という記事を書こうと思っている。

これまで各地でキノコ採集をしてきて、ツチグリなんてそれこそ飽きるほどに見てきているのに、幼菌がどうなっているかなんてこれまで想像してきたことがなかった。
身近にありながら見過ごしてきたものはたくさんあるようだ。
「あぁ、どうせツチグリか」で終わってきた、観察の甘さというものであろうか。猛省…

P.S.1
探索後に靴を脱ぐと、潰れたヤマビルの死骸があった。
靴内への侵入には成功したが、靴下が分厚かったので吸血までは果たせなかったのだろう。
かなり気を張っていたはずなのだが…

P.S.2
先日、業務で野外観察会の引率をしていたときに、ニワトコの木の根もとに立派なアラゲキクラゲ(博多ラーメンに入っている歯ごたえのあるキクラゲ)が生えているのを発見した。

嬉しくなって、横にいた上司に「やっぱりニワトコといえばアラゲキクラゲですよね!!」と言ったら「ん?何言ってるんだ、ニワトコといえばニワトコヒゲナガアブラムシだろ?」と 返された。
けして理解し合えない高い壁の存在を感じた。

そんな愉快な会社で働けて僕はとても幸せです。

 
 
 

コメント

  1. KOH より:

    上司すげーw

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