木から生えるステーキはリアル牛肉の代わりになるか

キノコは秋の味覚という先入観が日本人にはある。

もちろんさまざまな理由から秋がキノコ狩りに向いているのは間違いない(森が明るくて探しやすい、種類が多いetc.)が、実際には雨の多いこの国では、一年中何かしらのキノコが発生する。
そのため、やろうと思えばいつでもキノコ狩りを楽しめる。


では何故いまだに「キノコは秋」のままなのか。

私見ではあるが、秋のキノコが「和風の料理に合わせやすい」のがその理由ではないかと考えている。
春に美味しいキノコの代表格「アミガサタケ」や夏に美味しいキノコ「イグチ類」は、バターやクリームと合わせ洋風に仕立てるのが最もおいしい。
ヨーロッパでは最も珍重されているキノコ類だ。

春に採集したアミガサタケ。見た目はアレだが味はいい。詳細は過去の記事で


逆にこれらは日本風の炊き込み、煮物、鍋の類にはあまり合わない。そのような料理に合うのはやはり秋に出るキノコ、マツタケでありシメジであり、ナメコでありシイタケである(シイタケは春にも発生するのだが)


この説が正しいか否かはわからないが、事実いまだにこの国のキノコ狩りシーズンは秋のままだ。
そして知っている者だけが、春や夏に美味しいキノコをゲットして楽しむことが出来る。
まことにありがたい限りだ。

 

変わり種キノコの極北・肝臓そっくりカンゾウタケ

さて、そんな「日本で狩られないキノコ」の中に、GW~梅雨時にかけて発生する変わったキノコがある。
カンゾウタケだ。
このキノコもやはり日本では珍重されない(知られてもいない)が、欧米ではかなり人気がある。


カンゾウタケの外見はこんな感じだ。

カンゾウタケ幼菌

一言でいうと、木から生えたステーキ、もしくは牛タンである。

大木を超えた巨木、妖怪変化が憑いていそうな老木のスダジイの根元に、突然ひょっこり顔を出す。
外国では「牛の舌」「貧者のステーキ」なんて呼ばれているそうだ。


このキノコ、実はこれまで僕も図鑑でしか見たことがなかった。

物心がついた時からキノコ好きの筆者にとっては、カンゾウタケはずっと憧れのキノコだったのだが、大人になって車の免許を持ち、毎年のように遠征して高級キノコを探すようになると、いつしか忘れ去ってしまっていた。
春からこのサイトを始め、ネタ探しに奔走するようになってふと思い出したのだ。


幸い、神奈川県中西部はスダジイの森が多く、いくつも産地があるようだ。
さっそく探しに行ってみよう。

カンゾウタケを採ってその場で食べてみた

巨大なスダジイ自体は、神宮外苑をはじめ、都内にもたくさんある。
真剣に探せば家の近所でもカンゾウタケを見つけられるとは思うのだが、やはり最初の一つを採るには確率が高いとされているところが良い。
なにせ「幻のキノコ」なんて呼んでいる人もいるくらいなのだ。

僕は先週、「武蔵小杉の駅前繁華街で財布を落とし、30分後に交番で無事回収する」という離れ業で運を使い切ってしまっているので(日本は素晴らしい国ですね)、今回はなるたけ確実性の高い場所に行きたい。

というわけで、川崎市の自宅から2時間、丹沢にほど近い森に到着した。
急斜面を上り、幹回りが数メートルはある巨木の周りをぐるりとしてみると…

食べごろのカンゾウタケ

あっけなく御用。木の周りに5個ほど見つかった。

マツタケくらいのレア度を覚悟していたのだが、1本目の木で無事に出会ってしまった。
そもそもマツタケのように背景に溶け込む色合いをしているわけではないので、ありさえすれば非常に見つけやすいキノコである。


しかし、それにしても…
ピンクのキノコ

何というショッキングピンク
何をどうやったらスダジイの木からこの色素が出てくるのか。


表面はぷにぷにしていて、豚耳やタンに似た柔らかさと弾力がある。
1属1科の孤独なキノコらしいが、なんでこんなエキセントリックな進化を遂げてしまったのか、ぜひとも理由を聞いてみたいものだ。


このキノコ、欧米ではその通名の通りステーキの様に扱われることが多いようなのだが、いくつかの図鑑ではなんと生のままで食べることを勧めている。
何でも、ユニークな食感とさわやかな酸味が、生食によく合うらしい。

早速この場で食べてみよう。
※このサイトは本来的にはキノコの生食は勧めていません。
彼らは分解者なので、分解酵素で我々の消化器を逆に消化する可能性があります。
今回は例外ということで。



もぐもぐもぐ…

…酸っぱいマッシュルームだな。
食感が少し…なんというか…発泡スチロールっぽい。
ホコリタケにちょっと似てるかも…ってマイナーな食用キノコで例えてもしょうがない。

フレンチでしばしば出てくる生のマッシュルームが大丈夫な人なら問題ないが、僕は生のキノコの「キノコ臭」が苦手なので、生食はちょっとダメかな。


さて、時間もあるので、続けて他に見当をつけておいたポイントへ向かう。
急坂が多く、自転車で行くのは骨が折れる。

とある神社に到着。
急斜面の階段を上り、巨大なスダジイを探す。

幹回りが5メートルくらいあって、根元から幼枝が多数出ているような木を探すと…

カンゾウタケ老菌

あった!!しかもかなりでかい!

木の洞に出るカンゾウタケ

いくつも出ている。
山の神に感謝しつつ、味を見るべく大中小頂いていくことに。
新しいキノコが採れたときはいつもドキドキして脳内麻薬がドバっと出る。やめられなくなる瞬間だ。

再び2時間ペダルを回し、自宅へ向かう。

カンゾウタケを牛肉の代用として使ってみたい

まな板の上に並ぶカンゾウタケ。
カンゾウタケ収穫
残念なことに採取するとすぐに黒ずんで、生えているときの鮮やかさを失ってしまう。
とはいえあのショッキングピンクのままでも食欲は湧かないが…


今回の目的は表題の通り「カンゾウタケを牛肉の代用品にする」ことなので、いろいろな牛肉料理をこのキノコで試してみようと思う。

比較的若めの菌を取り、包丁を入れてみると…

カンゾウタケ断面

うわ、まさにこれ霜降り肉だ!
なぜか期待が高まる。


とりあえず、最初はソテーにしてみよう。
オリーブオイルを多めに引いて、強火で一気に焼く。

油に浮いたキノコの汁がバルサミコ酢に見える(血痕のようにも見えるが)

早速食べてみると…

す、酸っぱい…!
見た目のみならず味もまさにバルサミコ酢。
バルサミコ酢をゼリーで固めて温めて食べちゃったような味である。
酢酸様の臭みも感じる。
う~ん、これは微妙…

どうやら貧者のステーキは、ただ加熱しただけでは美味しくないようだ。
「貧乏すぎて生まれてこの方牛肉なんて食べたことない」って人に食べさせても、「これ牛肉じゃないでしょ」って言われるくらい別物だ。
仕方ない、気を取り直し、次の料理法に進もう。



やはりこのキノコに限っては、生食は合っている食べ方なのかなぁと感じる。
とはいえ完全な生食は口に合わないことは先の試食で判明済み。

というわけで、薄くスライスし、できるだけ生らしさを失わないように軽く湯通しする。
茹で汁があっという間にワインレッドになって軽くビビる。

試しになめてみると、匂い、味共にワインビネガーの味だった。
薄まったバルサミコ酢≒ワインビネガー風味ということか…


皿に並べ、エキストラバージンオリーブオイルとピーナッツオイルを混ぜ、岩塩とともに廻しかける。
色合いが貧弱なので、たまたま台所にあったアボカドをスライスして並べてみる。

カンゾウタケのカルパッチョ、完成!
カンゾウタケのカルパッチョ
見た感じは牛タンそのもの。
カンゾウタケ湯引きのカルパッチョ

実食。

うん、悪くない。
酸味とオイルが程よく混ざり、ドレッシングのようになっている。
軽く冷やしたことでバルサミコ風味が抑えられ、アボカドがコクを添えているので味わいに高級感が出た。
コリコリとした歯ごたえもちょっぴり牛タンをほうふつとさせる…と思うのだが、 何も知らずに食べた連れが「牛タンだと思ってたのに…騙された…」と苦情を言ってきたので完全に代用とは成りきれないようだ。
ただ「味はいいと思う」とも言っていたので、企画としては成功だろう。


さて、まだキノコは残っている。
しかも残りは少しばかり老菌になったものだ(キノコ界では、若くて新鮮な子実体(キノコ)を幼菌、古く必要以上に大きくなったものを老菌といいます)

カンゾウタケは老菌になるほど酸味が増し、キノコ臭も強くなってしまうらしい。
そうなるとかなり手を加えてあげる必要がありそうだ。


果たしてどんな料理法が良いのだろうか。
キーワードはバルサミコ酢と食感の良さ、そして牛肉との比較。
できれば、加熱することで現れる「酢酸くささ」も何とかしたい。

……

そうだ、カレーだ!!
辛みと酸味がうまくマッチしたカレーは、なんとなく高級感があって美味しい。
レトルトのカレーをスープでのばし、バルサミコ酢を入れるとまるでドミグラスソースのような高級感が出る。
うまくやればカンゾウタケでも同じ効果が得られるのでは…?


そうと決まればさっそく料理。
ニンジン、タマネギ、ジャガイモを切り、辛目のルーを鶏がらスープでのばして野菜を煮込む。

ここまでの実験で、カンゾウタケそのものに肉の風味があるわけではないことがわかっているので、風味づけのために冷凍庫に眠っていた牛ひき肉を加える。

老菌のカンゾウタケは、調理前にちょっと手を加えてあげる必要がありそうだ。
まずは膠状の表皮をむき、
カンゾウタケの皮は剥きやすい
さらに裏面の
カンゾウタケ老菌の管口
管孔を剥きとる。
管孔を剥いたカンゾウタケ

ポルチーニなど、いくつかのキノコでは傘の裏がひだではなく無数の小さな穴になっており、ここが舌触りや風味、はては消化を悪くしたりするので取ってしまうことが多い。
中身だけにすると、再びちょっぴりグロい中身がむき出しになった。

しかしこれをサイコロ状に切ると…
カンゾウタケカレー材料
牛肉っぽい。
少なくともキノコには見えない。


キノコをルーに投入して、煮込んでいく。
ルーの色がだんだんに濃くなってきたような…

ルーが3分の2ほどになったところで完成。
試しにキノコを取り出して味見をしてみる。

ルーの匂いをもってしてもごまかしきれない「温めた酢の臭さ」が口腔を襲う。
カレーでも駄目なのか…


しかし、スープの方にはキノコから出た微かな酸味が加わり、カレーというより香辛料の効いたシチューのような味わいに。これは意外、そして結構イケる
急きょ煮込みを再開し、寝る前に火を消して一晩おいてみた。


朝ごはんを食べる暇がなかったので、弁当箱に入れて会社へと持参した。

カンゾウタケカレー弁当

色がさらに濃くなって、ビーフシチューのようになっていた。
同僚の皆さんに好奇の目で見つめられつつ、恐る恐る口に運ぶと…

美味しい!!
これ、ハヤシライスだ。

ここにきてカンゾウタケの風味が初めてプラス方向に生きた。
カレールーと合わさり、ドミグラスソース+バルサミコ酢の味わいとなったのだ。

また、どれほど煮込んでもカンゾウタケの歯ごたえがなくなったりはせず、ひき肉と合わせると一瞬牛肉の味わいを感じることが出来た。

いろいろ試してきたが、これほどにカンゾウタケのみをバクバク食べたくなる料理は初めてだ。
大成功と言えるだろう。

ということで今回のまとめ
・カンゾウタケは牛肉の代わりにはならないが、見た目だけならかなり似せられる。
・生で食べられる人は生で、そうでない人は加熱後に冷やすか、スパイスで匂いをごまかした方が良いと思われる。
・みそ汁を赤だしに、ただの湯をワインビネガーに、そしてカレーライスをハヤシライスに変化させる不思議なキノコ。
・もしかしたら椎の古木からバルサミコ酢が採れるんじゃないだろうか…

評価
カンゾウタケソテー:★★★☆☆☆☆☆☆☆   値段なし
湯引きのカルパッチョ:★★★★★★★☆☆☆  600円/1プレート 恵比寿のキノコ専門レストランで出してもいいと思う
カレー:★★★★★★★☆☆☆  800円/1皿 作っている方も驚く味わい

備考:★の数は味、採りやすさ、コストパフォーマンスで決めています。
価格は種類、味わいが近いもの、スーパーマーケットにおける価格から、「これくらいならお店に売られてても買っていいぜ」という金額を独断で決定しています。その際参考にしたものを後ろに記載しています。


この食材、うまく使えばベジタリアン向け食材での商品化も可能ではなかろうか。
どうすかホクトさん…と思ったらもうやってるみたいね。

PS.カンゾウタケのジャーキー!?

いくつかのサイトでこのキノコのジャーキーを作っているところを見つけた。
試してみようと思ったが、詳しいレシピが見つからなかったので、とりあえず普通のビーフジャーキーと同じように作ってみた。


まずは薄切りにし
カンゾウタケスライス
肉用のハーブソルトをまぶし、水分を抜く
カンゾウタケジャーキー作成中
乾燥させてから、スモークしていく

そして、完成したのがこちら。
カンゾウタケ・ジャーキー完成品


さて、お味の方は…

…ちょっと酸っぱい。
いやわかってたけどね。
ジャーキーっていうより、スモークした熨し梅だ。


しかし、さすが洋風キノコというべきか、オレガノなどの肉料理用ハーブがよく合う。
しょっぱさも加わり、高級珍味のような雰囲気が出ている。
どうしてもカンゾウタケが食べたい…という禁断症状が出たときに、こいつがあると捗るに違いない。

 
 
 

コメント

  1. なみこっち より:

    カンゾウタケのお話、とても楽しく拝見しました。

  2. 「チキンマッシュルーム」マスタケを食べた | 野食ハンマープライス より:

    […] 冷ましてから手で裂いて、口に入れると酸っぱい。カンゾウタケの苦戦が思い出される味だ。 […]

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA