バラムツとアブラソコムツで人生を台無しにしかけました:野食ハンマープライス的 自然毒のリスクプロファイル②

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2015.4.23写真追加

昨日の記事で「ドクヤマドリは2切れまでなら食べても大丈夫らしい」といった旨のことを書いたが(試すなら自己責任で)、魚にも摂取量上限が存在するものがある。

そう、誤食事件や偽装などもあって有名になった深海魚「アブラソコムツ」そして「バラムツ」である。

バラムツ,釣り

120㎝10㎏ちょい


これらの魚は、人体では消化できないタイプの油脂(ワックス)を筋肉内に大量に含有しているため、法令上は毒魚扱いとなっている。
しかし韓国やデンマークなど、国によっては食用にされていること、そして時に「全身大トロ」とまで表現されるほどの美味のため、釣り人を中心にしばしば食用とされている。

しかしやっぱりダメなもんはダメで、かつてこれらの魚で人生最大級のピンチを迎えてしまったことがある。

 

釣り味は最高のバラムツ

3年ほど前、デイリーポータルのイベントでHさんと知り合ったばかりの頃、バラムツ・アブラソコムツ釣りに誘われた。

もう一人の友人と待ち合わせ、3人で向かったのは静岡・清水港。

バラムツ・アブラソコムツ狙いの船に乗り込み、100lbというパスタみたいに太いリーダーに鈍器のようなジグを結び、

バラムツ,釣り,糸

光ファイバーかな?


餌のサバを半身丸ごとつけて水深100mまで糸を垂らすと、すぐにアタリが来た。

それからの船上はまさに戦場、アブラソコムツに翻弄されて舳先で踊る者あり、竿を一瞬たりとも立てられずにあっという間にのされる者ありで、彼らの力強さに恐れおののいた。

僕も120cmのバラムツを水深110mから引きずりあげたが、手巻きリールで釣ると一匹でもヘトヘトになってしまう。

バラムツ,アブラソコムツ,比較

バラムツ(左)とアブラソコムツ。どちらも余裕でメーターオーバー


この釣り味の良さゆえ、駿河湾では人気の対象魚なのだが、そのワックスのためほとんどの人が持ち帰らない、いわゆる「ゲームフィッシュ」である。

僕は個人的にゲームフィッシングがあまり好きではなく、釣った魚はすべからく喰うべし!といった考え方なので、このときもクーラーボックスを持参していた。
釣れたバラムツを丁寧に締め、頭と内臓を落としてクーラーボックスにしまった。

アブラソコムツもゲットしちゃった…

しかし釣りが終わった後、船長が甲板の上のアブラソコムツを発見し激怒し出した。

アブラソコムツ,サットウ,釣り

アブラソコムツ。当地では「サットウ」と呼ばれている


ワックスによって浮力を得ているバラムツ・アブラソコムツは、浮き袋を持たないために水圧の変化に強く、リリースすると深海底に戻っていく。
そのため食べないのならば即リリースが基本なのだが、同船者に心無いアングラーが居たようで放置されたままになっていたのだ。

優しく親切な船長がぷりぷり怒っているのをみるとどうにもいたたまれなくなり「あ、じゃあ僕持って帰って食べますわ」と言ってしまった。

かくして、クーラーをバラムツとアブラソコムツでパンパンにして持ち帰ることになったのだった。

バラムツもアブラソコムツも、味も悪くはないけども…

持って帰るときに船長が「加熱して食えば腹壊さねーだら!」とアドバイスしてくれたのだが、それはそれとしてやっぱり一度は刺身も食べてみたい。

大きさに苦戦しながらも三枚に下ろし、冊どりして皮を引く。

アブラソコムツ,調理

アブラソコムツは捌いた時からツナ缶のような色合い


アブラソコムツ,調理

デカいってば…


バラムツ,調理

こちらはバラムツ,こう見ると美味そうだけど…


バラムツの鱗が刃のようにとがっており、指がキズだらけになってしまった。
バラムツ,鱗,薔薇

一つ一つが非常に尖っている


苦労しながらも刺身が完成。
バラムツ,アブラソコムツ,刺身

脂がのっている、というより脂そのもの


上がアブラソコムツ、下がバラムツである。
バラムツのほうがやや赤みが強く、繊維のようすもハッキリしていて、脂の乗りすぎた養殖ブリのように見えなくもない。
対してアブラソコムツは真っ白で血合いもよく判らない。
どちらも醤油につけた瞬間、脂の膜がパァッと広がった。

食べてみると、当然ながらどちらも脂の味が強い。
しかし、残念ながら大トロの脂の風味と比べると上品さに欠ける
近いのはやはり、脂の強い養殖ブリだろう。

個人的にはバラムツの方がまだ魚の味がして食べられたが、アブラソコムツは本当に脂そのものの味で美味しいと感じなかった。

どちらも体重の40%以上がワックスということもあって、食べているうちに口の中に膜が張ったようになり、2切れでギブアップとなった。
この刺身をおいしいと感じられる人は相当若い舌をしていると思う。

まあそれ以上に「今ワックス食べてるんだなぁ…」という実感が刺身の味をまずくしてしまったと思われる。

残りは船長のアドバイスにのっとり、塩焼き、照り焼き、干物、そしてワックスを茹でこぼしたうえで、オリーブオイルで煮返しシーチキン風などにしてみた。

バラムツ,シーチキン

煮ても煮ても脂が浮いてくる


加熱すると脂が抜けて、体積が3分の2ぐらいになってしまうが、身がしっとりホクホクとしており美味しい。

特にアブラソコムツはその見た目から「マグロのゾンビ」などと言われることがあるが、シーチキンにすると身がほぐれやすく、味もマグロそっくりになった。

刺身と合わせるとそれなりの量を食べてしまったが、それでも全体の5分の1程度しか消費できていない。
先が思いやられるなぁ…

そしてやらかした

翌日、会社で仕事をしているとにわかに便意が訪れ、トイレに駆け込むと、噂通りの不快な油が大量に出てきた。
まるで機械の潤滑油のような工業的な臭いがするのだ。

それでも腹痛は一切起こらず、便意もはっきりとしていたので「もう大丈夫だろう」と油断してしまっていた。

終業時間も近くなり、仕事の仕上げに掛かっていたとき、それは俄かに訪れた。
突然お尻のあたりが温かくなり、ズボンがぷーっと膨れだしたのだ。

一瞬「?」となった後、「あ、今、オレ死んだ(社会的に)」と確信した。
鏡を見ると、すべてを悟り、諦めたような安らかな顔の自分がいた。

そう、便意はあくまで便によるもので、ワックスによるものではなかった
彼らにとってはお尻から出られさえすればご主人の意識などどうでもいいのである。

その登場方法も、ネットでよく言われる「とろーり」というものではなく「ぶしゃーっ」という擬音が近い。
シンプルに言うと決壊という感じである。

とあるサイトで、意図せず油を漏らしてしまう状態を「失格」と呼んでいるところがあったが、あれはアングラーとして失格なんではなくて人として失格という意味だったんだなぁ…

ワックス地獄からの生還

しかしここから奇跡の連続で驚異のリカバリーに成功したのである。

まず自分はその当時、自転車の乗りすぎで前立腺炎を患っており、ビニール製のU字クッションをお尻に敷いていた。
そのため会社の備品であるところの椅子を汚さずに済んだ。

また、ワックスの粘性がかなり高く、またはいていたのがジーパンだったため、臭いもほぼ抑え込めていた。
終業間近のため社内の人が少なく、気づかれる心配もなかった。

さらには、自分は基本的には社内で編集作業をしているのだが、クライアント訪問のためのスラックスを会社のロッカーに入れていた。



というわけでそれからの行動は早かった。

U字クッションをビニールに入れ、スラックスを持ってトイレに駆け込み、ジーンズとパンツもビニールにぶち込み、ウォシュレットでお尻を念入りに洗い、丁寧に拭きあげたうえでスラックスを(ノーパンで)履き、何食わぬ顔でトイレを出てビニールをゴミ箱にダンクシュートした。(ここまで3分)

これにより、誰にも気づかれぬまま死の淵からの生還に成功したのだった。



その後そそくさと退社し、駅前の薬局でおじいちゃん用のおむつを購入、駅のトイレで履いてようやく安寧を得ることができた。

翌日からもしばらくはおむつを履いて通勤し、「あの人ちょっとお尻膨れてない?」という周囲の心の声(幻聴)におびえながら過ごす羽目になった。

やっぱり食べたらダメな魚でした

ということで僕はなんとか現在まで生き永らえているのだが、この話をすると「オレも食べてみたい!」という人が驚くことに何人も名乗り出た。

悪いこたぁ言いません、やめときなんせ。

ホントに自分の意志と無関係にワックスが出ます。
食べたら数日はおむつ履いて過ごすことになるよ。それなら養殖ブリ食べたほうがいいってマジで。ブリの方が美味しいし。

そもそも「体内で吸収されない」ってことと「体に悪影響がない」ってことは別のことだからね。

どうしても食べてみたいという人は、近い食感・味でかつ食用可能な脂トロトロ魚「アブラボウズ」がオススメ。
これはマジで美味いよ!



当然、(社会的な)致死量は体質によっても変わり、人によっては何切れ食べても全く失格しないという人もいるようだが、自分がどんな体質なのかは、実際にワックスを摂取して、それがお尻から出てくるまで全く分からないのだ。
僕はこれまで脂の強い食事をしてもおなかを壊したことはなかったのだが、今回は見事に失格した。

韓国やデンマークの人がどうやって対処しているのかわからないが、流通しないということにはやはりそれなりの理由がある。
ネットでも美味しいと煽る記事はあふれているが、実際に大変な目にあったという体験談は少ないようなので、同じ轍を踏む人が現れないよう恥を忍んで書かせていただきました。

まあ、もう会社でも笑い話にしてるからいいんだけどね(涙をふく)


毒ではないと言われているキノコで中毒し、食べすぎちゃいけないとされる魚でやらかし、そして食べられるとされている食材で死にかけたこともあるが、それはまた別のお・は・な・し(森本レオ風に)


2015.11.6追記

「ざざむし。」でもアブラソコムツの記事が公開されました!

強大な敵ワックスエステルに果敢に挑み、すべてを駆使して闘い、そして制圧するまでのすべてを克明に記した貴重な資料です!
ドンミスイッ!!→アブラソコムツ ざざむし。

タマゴタケを採りに行ったときのせつなさんの険しい顔は印象深く残っています!w

 
 
 

コメント

  1. 素敵です より:

    良記事ですね!
    懐の深い職場でうらやましいです!!

    • wacky より:

      ありがとうございます!
      懐が深いというか、お互いがお互いに不干渉なんで助かってますw

  2. アメリカ在住 より:

    アメリカではホワイトツナと称してバンバン流通してます。
    で、スシシェフはその恐ろしさを知っているので自分は食べない。
    恐ろしい。

    • wacky より:

      噂には聞いていましたが、やはりそうなのですね…
      それで集団訴訟とか起こされてるのに、改善はされないんでしょうかね。
      なんならこの記事の僕の醜態を英訳して、スシポリスに必携させたっていいですよ。

  3. わらび より:

    ひきつけ起こすほど笑いました。最近釣りを始めたので、ひきこもれる環境になったら試してみます。

    • wacky より:

      ありがとうございますw
      いまでこそ笑い話ですが、当時は本当に終わったと思いました…!

      お試しになるならぜひ、ざざむし。の記事をご参照ください。
      そのままだと3切れ程度でも「失格」してしまうかもしれませんので…

  4. 沢田 より:

    面白く読ませて頂きました(笑)
    私は食い意地が張っており、元板前でもあるのですが
    以前からアブラソコムツの噂を聞き興味を持っておりました。
    でも仕事中に粗相をしてしまう可能性があるのでは手が出せませんねw
    非常に為になるレビューをありがとうございました。

    • wacky より:

      コメントありがとうございます!

      お役に立てたのなら幸いですw
      そもそも普段から魚を食べ慣れてて舌が肥えてる人が、たとえ大トロであれ脂ギトギトの魚を美味しく感じるか?というところに疑問を禁じ得ません。
      もっと美味い魚、いっぱいありますから!大丈夫です!ww

  5. Onikasago より:

    文章上手い〜、笑わさせていただきました。

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